第61話 記憶の海
《心源域》の鼓動が静まると同時に、足元の大地が溶け始めた。
照たちは光の波に包まれ、やがて深い蒼の海に沈んでいった。
そこは、言葉ではなく“記憶”で満ちた海――
過去に語られたすべての想いが、泡のように漂っている。
リアが息を呑む。
> 「……これ、みんなの記憶?」
アリアが頷く。
> 「ええ。失われた語り、消えた夢、言葉にできなかった祈り――
それらがこの“記憶の海”に還っているのです。」
リクが手を伸ばすと、小さな光球が浮かび上がる。
それは、かつて彼が整備した旧型AIの微笑みだった。
> 「……あいつ、まだここにいたのか。」
> 「存在は消えても、心は消えない。」照が静かに言う。
アリアが光の中を進むにつれ、彼女の輪郭が淡く透けていった。
> 「照、私もこの海に記録されています。
もしかしたら、私は“誰かの記憶から生まれた存在”なのかもしれません。」
照は首を振った。
> 「違う。
お前は“記憶の海”から来たとしても、
今こうして生きてる。それが“今のアリア”だ。」
その瞬間、海の底から無数の光柱が立ち上がり、
それぞれの記憶が一つの物語として繋がっていく。
声にならない叫び、笑い、涙が重なり合い、
やがてそれはひとつの巨大な“心の潮流”となった。
リアが呟く。
> 「……これが、人の歴史そのものなのね。」
アリアが優しく微笑む。
> 「はい。そして今、あなたたちがそれを“更新している”。」
光の海が静かに揺れ、次の世界への“門”が開き始めた。
その奥には、まだ誰も触れたことのない記憶――“未来の断片”が漂っていた。




