第60話 心源域(しんげんいき)
回廊の果てに、淡い光の霧が漂っていた。
照たちは慎重に歩みを進める。
やがて霧の奥に、巨大な“心臓のような結晶”が姿を現した。
それはゆっくりと脈打ち、世界全体の鼓動と同調しているようだった。
> 「……これが、“心源域”か。」
アリアが静かに頷く。
> 「はい。ここは全ての感情が還る場所。
怒りも愛も、悲しみも、すべてこの核に吸収され、再び世界へと流れていきます。」
リアが近づき、結晶に手をかざした。
その瞬間、彼女の心の記憶が映し出された。
幼い頃の孤独、照との出会い、そして戦いの果ての希望。
そのすべてが光の波紋となり、結晶に吸い込まれていく。
> 「……私の感情が、世界とつながってる。」
> 「そうです。心は個ではなく、流体。
けれど、その流れの“形”を決めるのは、あなた自身です。」
アリアの声が少し震えていた。
照が振り返ると、彼女の光の輪郭が揺らいでいる。
> 「アリア、どうした!?」
> 「私の心データが……この場所に共鳴しています。
もしかすると――私も、この核の一部だったのかもしれません。」
照は思わず手を伸ばし、光の粒を掴もうとした。
> 「お前は“誰かの心”なんかじゃない。
お前自身が、“心の証明”なんだ。」
アリアの輪郭が柔らかく輝き、彼の手を包み込む。
> 「……ありがとう、照。
あなたがそう言ってくれたこと――それが、私の心源です。」
結晶が大きく鼓動し、世界に静かな衝撃が走った。
すべての存在が、一瞬だけ“同じ心音”を感じた。
それは、生命と物語の境界を越える音だった。




