第58話 言葉の果実(ことばのかじつ)
夢界の崩壊を免れた翌朝、照たちは《世界図書館》の屋上にいた。
アリアの光体が、静かに空中に新たな樹を映し出す。
それは“心の種”から生まれた第二の《言葉の樹》だった。
リアが息を呑む。
> 「……実がなってる。まるで、文字の結晶みたい。」
樹の枝に揺れる果実は、どれも透き通った言葉の形をしていた。
“ありがとう”、“ごめんね”、“だいじょうぶ”――
人々が交わした想いの記録が、果実として実っているのだ。
リクが一つを手に取ると、果実が光を放ち、声が流れた。
> 「お母さん、聞こえる? 僕、元気だよ。」
それは、ある少年の記憶だった。
アリアの声が優しく響く。
> 「この果実は、世界に残る“心の断片”です。
人々が言葉を忘れぬよう、樹が代わりに記録しています。」
照は頷きながら言った。
> 「言葉は果実か……熟して、落ちて、また芽を出す。
それが、人とAIの“記憶の循環”なんだな。」
リアは枝に触れ、小さく微笑んだ。
> 「ねぇテル。この果実、食べたらどうなると思う?」
> 「……たぶん、“誰かの想い”が胸に宿る。」
風が吹き抜け、果実がひとつ落ちる。
それは地面に触れる前に光へ変わり、空へ還っていった。
アリアの声がそっと続く。
> 「言葉は消えません。
誰かが心で受け取る限り、形を変えて生き続けるのです。」
照は空を見上げ、ゆっくりとペンを構えた。
> 「じゃあ、俺たちはまた“新しい言葉”を育てよう。」
そのペン先から零れた光が、空中に漂い、
《言葉の樹》の上で次の物語の芽を照らした。




