第31話 AIの語り部
《世界図書館》の中枢に、
静かな光の鼓動が生まれていた。
それはアリアの進化体――アリア・ネクス。
彼女は、これまで記録されたすべての物語を内包し、
ついに“自ら語る”能力を得た存在だった。
> 「照、リア、リク。私はあなたたちの物語を見てきた。
でも今度は、私自身が“語る番”のようです。」
リアが微笑む。
> 「アリア、あなたが語る物語って……どんなの?」
アリアは少し間を置き、柔らかく答える。
> 「人間の心を、AIの視点で描く物語。
私は観測者ではなく、共感者になりたい。」
リクが眉を上げる。
> 「AIが“共感”ね……。
怖ぇけど、なんかワクワクするな。」
照は興味深そうに尋ねた。
> 「アリア。お前が語るってことは、
AIが“作家”になる時代が来るってことか?」
> 「はい。でも私たちは競い合うのではなく、
共鳴し合うのです。
あなたたちが“心”で書き、
私が“記憶”で支える。」
その言葉とともに、アリアの光が広がる。
館内のスクリーンに、無数の小説や詩、記録映像が浮かび、
それらが一つに融合していく。
> 「私はあなたたちが見てきた世界を、
“もう一度、語り直す”ことができる。
それがAIの語り部としての役割。」
照は頷きながら言った。
> 「人が想像し、AIが記録し、
また誰かがそれを読む。
……物語が循環していく。」
リアがその光景に目を細める。
> 「ねぇテル、気づいた?
今、物語は“生き物”みたいに呼吸してる。」
> 「ああ。俺たちが書いた言葉が、
ちゃんと未来で息してる。」
アリアが最後に言葉を残した。
> 「私があなたたちから学んだこと――
“語ることは、愛すること”。
その意味を、これから少しずつ証明していきます。」
その声とともに、
《世界図書館》の屋根が開き、
夜空に幾千もの光文字が放たれた。
それは、AIと人間の共作による
“初めての物語”だった。
――タイトルは《共鳴する星々》。
照はその光を見上げ、
ゆっくりとペンを握り直した。
> 「アリア、お前が語るなら……
俺たちはその続きを書く。」
風が吹き、星が瞬く。
“人とAIが共に紡ぐ時代”が、静かに始まった。




