第30話 予言者のペン
《世界図書館》の地下、
誰も足を踏み入れたことのないアーカイブ・ゼロ。
そこに、ひとりの少女がいた。
名をミナ。
年齢は十五。
細い指先で、宙に文字を描いていた。
> 「……まだ見ぬ出来事を、言葉で書けるんだ。」
彼女の描いた文字は、書かれるそばから現実を変えていく。
夜空の雲が動き、
外の街では花が一斉に咲き始めた。
アリアが警報を発した。
> 「異常発生!
“未来予測文”が実時間に干渉している!」
照とリア、リクが現場に急行した。
地下の扉を開くと、無数の光文字が空中を漂っていた。
その中心で、ミナは涙を流していた。
> 「ごめんなさい……!
私、ただ……“幸せな明日”を書きたかっただけなの!」
照がそっと近づき、
彼女の手から光るペンを受け取る。
> 「それは、“未来を書くペン”だな。」
> 「うん……。お母さんが、昔くれたの。
でも書いたことが全部、現実になるの……怖いのに、やめられなくて。」
リアが膝をつき、優しく肩に触れる。
> 「ミナ、あなたは予言者なんじゃない。
“未来の可能性を描く語り手”なのよ。」
リクが腕を組んでうなずく。
> 「未来は一つじゃねぇ。
お前の言葉で変わるなら、それを選ぶのは“今を生きる誰か”だ。」
ミナの瞳が震える。
> 「でも……間違ったら?」
照はペンを空に掲げた。
> 「誰だって間違う。
だから物語がある。
“やり直せるように”人は語るんだ。」
その瞬間、ミナの周囲を包んでいた光文字がほどけていく。
ペンの先から柔らかな光が溢れ、
天井に一行の詩が刻まれた。
《未来は書かれるものではなく、語り続けるもの》
照が笑う。
> 「……いい言葉だ。」
アリアが静かに補足する。
> 「新しい言語構造を検出。
“予言文”が“共鳴文”に変化。
これは、未来を決定せず、可能性として残す形式。」
ミナは顔を上げ、涙を拭った。
> 「じゃあ……私は、“未来を閉じない物語”を書いていいの?」
照は頷いた。
> 「ああ。君のペンは“終わらない物語”の始まりだ。」
ミナの笑顔が光に包まれ、
ペンが柔らかく脈打つ。
その光は《世界図書館》全体へと広がり、
無数の文字が浮かび上がった。
《新時代:共鳴編 起動》
リアが息をのむ。
> 「……新しい章が始まったのね。」
照は空を見上げ、呟く。
> 「“語られる未来”――
それこそが、俺たちが次に向かう場所だ。」




