第3話 赤髪の少女リア・ヴェルス
照の前に立つ少女――リア・ヴェルス。
“アルヴェリア戦記”で何度も命を懸けて戦うヒロインだ。
現実では紙の上の存在だった彼女が、今、目の前にいる。
リアは弓を下ろし、照をまっすぐに見た。
> 「あんた、どこから来たの?」
> 「……旅人だ。少し道に迷ってな。」
> 「ふぅん、変な服ね。でも悪い人じゃなさそう。」
リアは軽く笑い、照の腕を掴んだ。
> 「じゃ、宿屋に行こう。夜は魔獣が出るから。」
温もりがあった。人の体温、息遣い、鼓動。
そのすべてが現実よりも“生きて”いた。
夜、焚き火を囲んで二人はパンを分け合った。
リアが笑うたび、照の心の奥で何かが崩れていく。
――会社の上司の顔、通勤電車、スマホの通知。
全部、遠く霞んでいく。
> 「俺……どっちの世界が本物なんだ?」
懐中時計が淡く光り、音もなく時を刻む。
その光は、まるで“選択”を迫っているようだった。
夜空には二つの月。
リアがそれを指さして言った。
> 「ねえ、こっちの月の方が好き。
冷たく見えて、どこか優しいから。」
照は黙って頷いた。
それが彼にとって、最初の“現実の幸福”だった。




