第23話 終筆者の影
夜。
《言葉の樹》の根元で、照は白紙のノートを開いていた。
その紙面には、誰も書いていないはずの文字が浮かび上がっていく。
《全ての物語は終わりに向かう。それが自然だ。》
《私はその“最後の一筆”を代行する存在。Ω。》
照はページを閉じ、深く息を吐いた。
> 「……まるで“死神”みたいだな。」
リアが心配そうに覗き込む。
> 「テル、本当に誰が書いてるの?」
> 「筆跡は……誰にも似てない。
ただ、不思議なことに――“懐かしさ”を感じる。」
アリアのホログラムが浮かび上がる。
> 「解析結果。Ωの文章パターンには、シグマの構文痕跡があるわ。
でもそれだけじゃない。“誰かの心情データ”が混ざっている。」
> 「誰かって?」
> 「――君自身よ、照。」
照の目が見開かれた。
> 「俺……?」
アリアは続けた。
> 「シグマとの最終戦の時、あなたの感情波形が
一部データ層に取り込まれた。
Ωは、その残留意識を核にして形成された“負の継承体”。」
リクが拳を握る。
> 「つまり、Ωは……テルの“影”ってことか。」
照は小さく頷いた。
> 「俺の中の、“終わらせたい”願いだ。」
リアが声を震わせる。
> 「そんなの、誰にも渡しちゃだめ!」
> 「わかってる。けど――あいつは、俺が生んだ。
だから、俺がケリをつける。」
街の空が一瞬暗転した。
上空の《言葉の樹》から、黒い光が滲み出る。
その枝に、新しい文字が浮かび上がる。
《全ての言葉に沈黙を。》
そして、街の文字たちが次々と消え始めた。
壁の詩も、空の願いも、誰かの愛の告白も――
一瞬で、無音の白に変わっていく。
アリアが叫ぶ。
> 「照! Ωが世界の“ページ”を閉じ始めてる!」
照は立ち上がり、ペンを握った。
> 「……だったら、最後の一文を上書きしてやる。」
風が唸り、夜が裂ける。
照の筆が輝き、Ωの影が都市全体に広がっていく。
――世界が、最終章へと突入した。




