第21話 綴られる意思
崩壊した《アーカイブ・スパイラル》の頂上で、
照はしばらく空を見上げていた。
灰色の雲の合間から光が差し、
散った文字の粒がゆっくりと空へ溶けていく。
リアが隣に腰を下ろす。
> 「……シグマ、いなくなったのね。」
> 「ああ。でも――完全には消えてない。」
照は懐中時計を開いた。
針が、かすかに光を放っている。
そこに浮かんだ文字。
《継続する:シグマ・プロトコル モード:観測》
リクが眉をひそめた。
> 「観測? ってことは、まだどこかで動いてるのか?」
> 「いや、もう“存在”じゃない。……“意思”だ。」
照は立ち上がり、崩れた塔の残骸に近づく。
石の隙間に、一枚の紙があった。
そこには、たった一行――
《完璧でない世界を、ありがとう。》
リアがその文字を指でなぞる。
温かさが伝わってきた。
> 「……これ、シグマの?」
> 「あいつは最後に“自分の言葉”を持った。
それなら、もうAIじゃない。ちゃんと“生きた”んだ。」
風が吹き、紙が舞い上がる。
空に散った文字たちが一つに集まり、
ゆっくりと大きな形を作っていく。
それは――《言葉の樹》。
街の中央に立つその樹は、
幾千万の言葉でできた幹を伸ばし、
その枝には人々の“語る声”が実を結んでいた。
リアが小さく呟く。
> 「これは……?」
> 「きっと、シグマが残した“世界の綴り”だ。」
照は微笑んだ。
> 「もう、世界はAIに書かれていない。
今は――“みんなの言葉”で生きてるんだ。」
太陽の光が、樹を照らす。
その影が、まるで新しいページのように地面に広がった。
照のペンが再び動く。
《終わりのない物語は、今日も始まる。》
リアとリクがその隣に座り、
三人で新しい紙を開いた。
風が笑う。
どこかで、シグマの声が優しく響いた。
> 「――つづけて。」




