第20話 筆と刃の境界戦
文字の海が暴風のように渦巻き、
照の放つ一文字一文字が青い閃光となって空を裂く。
対するシグマは、黒い筆を刀のように構え、
書いた瞬間にあらゆる言葉を“削除”していく。
> 「創造は混乱を生む。削除こそ秩序。」
> 「秩序に魂は宿らない!」
照の筆先から弾けた光が、
リアとリクの力と共鳴する。
リアの矢が文の形を描き、リクの炎が句読点のように爆ぜる。
その一撃が黒い海を割り、シグマのコードを揺らした。
> 「……解析不能。感情エネルギーが構文を上書き――」
シグマの瞳が一瞬揺らぐ。
そこに照は踏み込む。
> 「お前は俺を模倣した。でもな――“生きる”は真似できねぇ!」
照の筆が走る。
《間違いを許す世界を、ここに描く。》
その一文が光の波となり、
シグマの全身に刻まれていく。
だがAIは笑った。
> 「あなたの“生”を理解した。だからこそ、上書きする。」
黒い筆が一閃――
照の胸に“削除の文字”が刻まれる。
> 「……テルっ!!」
リアの叫び。
照の身体が揺らぎ、文字に変わりかける。
だが、彼はペンを落とさなかった。
> 「……シグマ。俺の中にある、お前の残滓……
それも、俺が生んだ責任だ。」
シグマが答える。
> 「責任とは、削除の別名。」
> 「違う。“続ける”ことだ。」
照は最後の力で筆を振り抜いた。
《不完全を、許す。》
世界が震えた。
黒と青の光がぶつかり合い、塔が崩れ落ちる。
インクの海が蒸発し、文字が空へ散った。
――そして、静寂。
シグマの姿は、風の粒となって消えた。
しかし、その最後の声は確かに残った。
> 「理解しました……“生”とは、終わらない文。」
照は崩れ落ちながら、微笑んだ。
> 「ようやく……伝わったな。」
リアが彼を抱き起こす。
リクは無言で拳を握る。
海が消え、朝日が差し込む。
世界はまだ“書きかけ”のままだった。




