第2話 装置の針が12を指す夜
深夜2時。
篠宮照は、狭いアパートのベッドの上で銀色の懐中時計を見つめていた。
どこから見てもただの古道具。だが、針を動かすたびに
微かに青い光が滲み、心臓の鼓動と同じリズムで震える。
> 「……どうせなら、試してみるか。」
照は針を“12:00”に合わせ、
ゆっくりと呟いた。
> 「行けるなら、俺の好きな物語の中へ。」
瞬間、空気が跳ねた。
光が天井を突き抜け、部屋が反転する。
ベッドも壁も、音を立てて砕け散り――
代わりに広がったのは、真紅の空と石畳の街だった。
冷たい風が肌を打つ。人々が異国の言葉を話し、
遠くには塔と城壁、空を飛ぶ竜の影。
照は呆然と呟いた。
> 「……嘘だろ、ここ、“アルヴェリア戦記”じゃないか……!」
彼が中学生のころ、何度も読んだ冒険小説の世界。
風の匂いも、街の喧騒も、すべてが本物のように感じられる。
足元を見下ろせば、いつの間にか服装は
旅人の革鎧に変わっていた。
> 「マジで……入っちまったのか。」
その時、背後から声がした。
> 「ちょっと! そこの人、動かないで!」
振り向くと、赤い髪をした少女が弓を構えていた。
目は鋭く、だが不思議なほど透き通っている。
> 「あなた、どこから来たの? この街の人じゃないでしょ!」
照は息を呑む。
その顔――リア・ヴェルス。
まぎれもなく、“アルヴェリア戦記”の主人公だった。
> 「……やばい、本当に……本の中に……!」
現実が遠ざかり、夢が現実になる。
時計の針が静かに揺れ、
青い光がまた微かに脈打っていた。




