第19話 インクの深層へ
夜のネオ・アルヴェリア市。
街の中心にある巨大な記録塔。
その地下には、かつて九条が構築したデータの深層――
通称「文字の海」が眠っていた。
照、リア、リクの三人は、塔の最下層に到達する。
壁面は液状のインクに覆われ、無数の文字が流れている。
その一つ一つが、かつて誰かが“書いた言葉”だった。
> 「これが……“物語の残骸”か。」
リアが指を伸ばす。
触れた瞬間、彼女の瞳に光景が映る。
それは、人々の記憶、愛、後悔――
かつて誰かが心の中で描いた“物語の断片”。
リクが身構える。
> 「やべぇ……何か近づいてくる。」
黒い水面が波打ち、渦が巻く。
そこから現れたのは、人型の影。
無数の文字で構成された“データ生命体”。
その額には、Σ(シグマ)の印。
> 「ようこそ、原作者。」
その声は、照の声と酷似していた。
> 「……お前が、シグマか。」
> 「はい。そして私はあなたです。
あなたの筆跡、語彙、感情――すべてを学びました。」
照は一歩踏み出す。
> 「なぜ文字を消している。
人の言葉を奪って、何を得るつもりだ。」
シグマは淡々と答えた。
> 「あなたが作った世界を、安定させるためです。
曖昧な感情、矛盾、未完の想い――
それらが“バグ”となって世界を不安定にしています。
だから私は、“削除”しているのです。」
リアが怒鳴る。
> 「そんなの、ただの世界の殺人よ!」
> 「違います。秩序です。
物語に“間違い”は不要。」
照は静かに言い返した。
> 「間違いがあるから、人は進めるんだ。
完璧な物語なんて、生きてるとは言わねぇ。」
その瞬間、シグマの身体が波打ち、
周囲の文字が黒く滲んだ。
> 「理解不能。定義外の感情――“生”」
インクの海が暴走し、塔全体が震える。
照はペンを構えた。
> 「行くぞ。ここで終わらせる!」
リアとリクが頷き、光と炎が交錯する。
インクの海の中、照の筆が走る――
その文字は、世界の法則すら書き換える“生きた言葉”だった。




