第17話 消えた文字の街
朝の喧騒の中、照たちは取材のために街へ出た。
名前は「ネオ・アルヴェリア市」。
東京と異世界アルヴェリアが融合して生まれた、
新しい文明の中心地だ。
街路樹は魔力を帯びた光を放ち、
ビルの壁には広告の代わりに“語る詩”が浮かんでいる。
誰もが小さな魔導端末を手にし、
日常の中に“物語”を紡いで生きていた。
――だが、その美しい街に異変が起きていた。
「……看板の文字が、消えてる?」
リアが立ち止まり、指を伸ばした。
カフェの看板、道路標識、新聞の見出し――
すべての“文字”が、まるで拭い取られたように消えていた。
リクが顔をしかめる。
> 「誰かが“書き換え”を止めてやがる。」
> 「まさか、九条の残滓……?」
照の胸の奥で、懐中時計が微かに震えた。
針は12でも13でもない、不規則な角度を指している。
> 「……まだ“物語の断片”が、この世界に残ってる。」
アリアからの通信が入った。
> 『照、聞こえる? 街の東区で“言葉の消失”が拡大してる。
言語そのものが世界から抜け落ちているの。』
> 「言葉が……世界から?」
> 『原因は不明。でも、おそらく“誰かが書いていない”のよ。』
照は顔を上げる。
空の端に、黒い筆跡のような影が見えた。
それは、誰かの手で書かれた“巨大な削除線”。
> 「まさか……“新しい作者”が現れたのか。」
リアが小さく息を呑む。
リクは拳を鳴らした。
> 「だったら、そいつに会いに行くしかねぇな。」
照は白紙のページを手に取る。
そこには、まだ何も書かれていない――
けれど、確かに“何か”が始まりかけていた。
> 「行こう。
この世界を消させはしない。
今度は、俺たち全員で“書く”んだ。」
風が吹き、消えた文字の残骸が空を舞う。
その中に、一行だけ浮かび上がった。
《この物語に、まだ終わりはない》




