第14話 現実の終筆点(エンドライン)
空に浮かぶ都市と大地が、音を立てて繋がり始めた。
東京の高層ビルが、アルヴェリアの城壁に飲み込まれていく。
電車が竜の背を走り、
ニュースキャスターの声が、魔法の詠唱と重なって響いた。
> 「……世界が、ひとつになっていく。」
照の声は震えていた。
九条の“理想”が、完成に近づいていた。
彼は現実の痛みを消すために、
すべての人間を物語の登場人物にしようとしていたのだ。
> 「苦しみも、死も、悲しみも――
“物語”になれば意味がある。
そうすれば、誰も無駄に死なない。」
九条の言葉は、一瞬だけ優しかった。
照は拳を握る。
> 「……俺もお前の気持ちはわかる。
でも、それは生きることを諦めた人間の理屈だ!」
九条の身体が光に包まれ、
空間に巨大な羽根ペンが描かれていく。
それが“終筆点”――
現実と物語を完全に融合させる最終装置だった。
アリアの声が照の頭に響く。
> 『テル、止めて。
このままでは、どちらの世界も壊れる。』
照は震える手でペンを構える。
> 「わかってる。でも……どうすればいい!」
リアが彼の手に触れた。
> 「テル、私たちはあなたの物語。
でもね、あなたの心があってこそ“生きてる”の。
だから、最後の一文を――“あなた自身”として書いて。」
照はゆっくりと目を閉じ、
紙に一行だけ記した。
《物語は、終わりではなく、誰かの始まりだ。》
青い光が広がり、世界を包み込む。
九条が驚愕の表情を浮かべた。
> 「そんな……未完のままで、世界を繋げる気か!」
照は静かに微笑んだ。
> 「未完だから、未来があるんだ。」
空が崩れ、光が全てを飲み込む。
現実と物語、作者と登場人物、
全ての“境界”が溶け合い、
ひとつの白い頁へと変わっていった――。




