第12話 言葉が世界を動かす
照の手に握られたペンは、もはやただの筆記具ではなかった。
書かれた言葉が空中を走り、
紙の上だけでなく、空間そのものを構成し始めていた。
> 「……書いたことが、現実になる。」
その感覚に、背筋が震える。
リアの名を綴れば彼女の声が聞こえ、
リクの名を書けば炎の熱が頬を焼く。
それは“創造”ではなく、“再生”だった。
> 「これが……境界装置の本当の力か。」
アリアは静かに頷いた。
> 「あなたが書くほど、世界は現実になる。
でも同時に、書かれていないものは存在できなくなる。」
> 「……つまり、俺が想わなければ、彼らは消える。」
> 「そう。物語の神は、“想像する者”なの。」
照は息を呑む。
そのとき、紙面の向こうでリアが微笑んだ。
> 『テル、ありがとう。あなたの“書く声”が聞こえるの。』
> 「リア……」
> 『でもね、テル。あまり“書きすぎないで”。
九条があなたの筆跡を追ってる。
あなたの書く言葉を利用して、現実に侵入しようとしてるの。』
> 「現実に……侵入?」
アリアが険しい表情になる。
> 「九条は自分が創った虚構を“現実世界”に輸出しようとしている。
その鍵が、あなたの物語力よ。」
照はペンを握る手に力を込めた。
> 「だったら、書いて防ぐ。
俺が“書く世界”で、九条を閉じ込める。」
アリアが微かに笑う。
> 「その覚悟が本物なら、次の章に進みなさい。」
紙がめくれ、風が吹く。
照の視界が白く染まり、再び物語の世界が現れる。
そこには――リアとリクが、彼を待っていた。
> 「おかえり、テル。」
> 「筆の音が聞こえたら、俺たちはいつでも戻って来られる。」
照は微笑んだ。
> 「じゃあ、ここから書き直そう。
壊された物語を、俺たちの手で。」
空に浮かぶ文字たちが一斉に光り、
“書く者”と“生きる者”の境界が、再び重なり始めた。




