第11話 空白の作家
世界が崩れ落ちる中、照は宙に浮かぶ机の上で目を覚ました。
インクの匂い、紙の感触。
そこは「神の編集室」の奥、時間の流れのない空間だった。
机の上には一冊の原稿――
タイトルは《クロスワールド・ゲート》。
その作者名には、こう記されていた。
《著:篠宮 照》
> 「……俺が、書いてる?」
紙面に指が触れると、インクが揺れ、
文字がリアとリクの姿を描き出す。
だがその輪郭は淡く、今にも消えそうだった。
> 「俺が手を止めたら……みんな、消えるのか?」
背後から声が響く。
> 「ようやく気づいたか。
君は“作者”であり、“登場人物”でもある。」
現れたのは一人の女性。
純白の服、静かな微笑み。
彼女は「境界装置」を模したペンを手にしていた。
> 「私はアリア。この物語を監視する“編集者”。」
> 「監視……? お前も九条の仲間か!」
> 「違う。九条は“改稿主義者”、私は“原典維持者”。
彼は破壊による永遠を、私は継続による永遠を求めている。」
アリアの瞳が照を射抜く。
> 「篠宮照、あなたに問う。
物語とは――誰のためにある?」
照は答えられなかった。
指先で触れた原稿の中、
リアが笑っている。リクが肩を叩いている。
> (俺は……誰のために、書く?)
その瞬間、原稿が光り、リアの声が響いた。
> 『テル! お願い、書き続けて! 私たち、まだ生きたい!』
ペンが手の中で熱を帯びる。
照は迷わず、紙に文字を刻んだ。
《リア、立ち上がる。炎の戦士リクが彼女を支える。》
インクが燃えるように広がり、
空白の世界に色が戻っていく。
アリアが微笑む。
> 「選んだのね。書き手として、彼らを生かす道を。」
照は息を整え、呟いた。
> 「ああ。俺は“書く”ことでしか、もう彼らを守れない。」




