25.二人の新たな旅路
それから数か月後、ラクルベリの外れに建つ小さな礼拝堂の庭には、色とりどりの草花が揺れていた。
礼拝堂には美しいステンドグラスを通して午前の陽光が穏やかに射し込み、礼拝堂の横に立つ塔の上では、鐘が高らかに鳴っていた。
その日、アマリアとエデルは、夫婦となる誓いを交わした。
派手な祝福の言葉や装飾で、華美に飾り立てるような式ではなかった。
参列している人々は、アマリアの家族と、エデルの母親、ラクルベリで祖父母同然だった老夫婦。そして、元孤児のレアと文字入れ係の中年の女性だけ。
アマリアは、繊細な刺繍が施された純白のドレスに身を包んでいた。ベールの下の髪は結い上げられて、真っ白な真珠でできたティアラが載せられている。
アマリアは今日という日を迎えてもなお、エデルに寄りかかることなく、自分の力でまっすぐに生きていた。
けれど、アマリアの手は今、エデルが差し出した手をしっかりと握っていた。
エデルはアマリアを見つめながら、心の中で何度も思っていた。
これからもアマリアを守っていきたい。
喜びの日も、悲しみの日も、アマリアがどんな道を選ぼうとも、共に歩いていきたいと――。
「私はアマリアを妻として生涯敬い、支え合って生きていくことを誓います」
牧師の問いかけに、エデルは迷いなく応じた。
「わたくしもエデルを夫とし、愛と誠意をもって、エデルと支え合って生きていくことを誓います」
アマリアもまた穏やかに答えた。
そして、指輪の交換。
エデルが取り出したのは、母から譲られたルイド家に代々伝わる二つの金の指輪だった。
誓いの儀式を終え、二人は牧師に背を向けて、赤い絨毯の上を歩いていった。
礼拝堂の扉が開くと、外には二人を祝福するために駆けつけた人々によって、薄紅色の花びらの嵐が舞っていた。
人生という道のりを、それぞれの意志で歩いてきた二人が、今、一つの道を共に歩き始める。
これからの二人の道は、時に困難もあるだろう。
それでも、きっと温かく、穏やかで、楽しいものになるに違いない。
結婚式の後、二人は空き家となっていた庭園付きの邸宅に連れて行かれた。
そこは、二人の結婚を祝いたい人々が用意した、パーティー会場となっていた。
アマリア雑貨店を支えてきたレアたち従業員や、長い付き合いとなった取引先の面々、そして、王都から駆けつけた令嬢たちと、アマリア親衛隊の女性たち。
どの顔にも、喜びの色と、少しの感慨深さが浮かんでいた。
アマリアは、結婚式の時よりも少しだけリラックスした笑顔を見せていた。
ドレスはそのままに、髪から真珠のティアラだけが外され、代わりに頭に白い花冠をかぶっている。
エデルの隣に並ぶアマリアの姿は幸せそうで、まるで淡い光に包まれているかのようだった。
「僕はこんなに笑うアマリアさん、初めて見ましたよ」
「本当に幸せそうだわ」
若い従業員がこっそり呟き、隣に座る文字入れ係の中年女性が小さくうなずく。
エデルの母が、アマリアの親衛隊員に手を引かれながらやって来て、アマリアに陶器でできた花瓶を手渡した。
「もし気に入ってもらえたら、新居のどこかに飾ってほしいのよ……」
自ら作ったものだと語りながら、遠慮がちに渡された贈り物だった。
「二人の新しい暮らしに、いつも幸せの花が咲いているようにと思って……」
「ありがとうございます」
アマリアは目を潤ませながら、花瓶を胸に抱きしめた。
その後は、ラクルベリで人気の小さな菓子店が特別に用意したケーキが運ばれ、アマリアとエデルが並んでナイフを入れると、拍手と笑いが広がった。
「もしかして、このケーキはエデルが選んだのでは? フルーツもチョコレートも載っていて、ものすごく甘そうよ」
「ああ、私だ。君は疲れた時、甘いもので元気を出すと言っていただろう? 結婚式から続けて、このパーティーだ。君も疲れただろう?」
エデルがわざと心配そうな声音で言うと、アマリアは目を伏せて笑った。
二人の間で交わされる小さな会話は、まわりの人々のことも笑顔にしていた。
夜が近づいた頃、パーティーの終わりが近づいてきた。
エデルは席を立ってアマリアの手を取り、アマリアをゆっくりと立たせた。
「アマリアと出会えたことは、私の人生最大の幸運だと思っています」
エデルの声には、誰もが感じ取れるほどのアマリアへの愛情が込められていた。
アマリアは少し頬を染めながら、エデルの隣で嬉しそうにほほ笑んだ。
「これから夫婦として、アマリアと共に歩いていきます。どうか皆さん、これからもよろしくお願いします」
大きな拍手が沸き起こり、アマリアが「ありがとうござます」と言いながら手をふった。
パーティーはゆっくりと幕を閉じていった。
二人の新たな旅路が、今日、ここから始まる。
心から二人の幸せを願う、多くの人々に見守られながら――。




