24.愛する人と共に生きていく
エデルがアマリアに正式な求婚をしたのは、産業振興式典からしばらく経った、ある晴れた日の午後だった。
さわやかな風が吹き、アマリア雑貨店の王都本店に、新しい香り袋や封筒と便箋のセットが並べられる季節。
エデルはアマリアを『新しい物件の視察』と称して、王都郊外の丘へと連れ出した。
アマリアが案内されたのは、緩やかな斜面に建つ、瀟洒な石造りの建物だった。
庭には、まだ植えられていない苗木が用意されていた。
館に入ってみると、真新しいガラス窓から、午後の柔らかな陽光が射し込んでいる。
「エデル、ここは誰に売る予定の家なの?」
「えっ、いや、売るって……。それは……、まだ決まってはいないな」
「エデル?」
アマリアがエデルに向き直ると、エデルは真剣な眼差しでアマリアを見つめていた。
エデルは上着の内ポケットから、濃紺のベルベットが貼られた小さな箱を取り出した。その内側に収められていたのは、繊細な金の細工に、エデルの瞳と似た茶色みがかった宝石のついた、上品な指輪だった。
「アマリア・ターフライ。君と共に、未来を築いていきたい。私は商人として君を尊敬している。一人の人間としても、君を信頼している。もし君が、誰かの妻となる日が来るなら、その相手は私であってほしいと、ずっと思っていた」
愛に酔わせるような演出は一切なかった。
エデルは、だたまっすぐにアマリアを見つめ、その場でひざまずき、小箱を開けて指輪を掲げていた。
「ええ、エデル……。エデルとならば、わたくしは幸せな未来へと歩いて行けるわ」
エデルの手によって、アマリアの左手の薬指に指輪がはめられた。
その指輪は、家名のためや、契約のための物ではなかった。
愛する人と共に生きていくという、エデルの誓いの証だった。
アマリアは指輪が薬指に通された瞬間、ほんの少しだけ目を見開いた。
その石の色に、エデルの心を見たからだ。
「これは……、エデルの瞳の……」
「ああ、君に恋い焦がれる男の瞳の色だ」
その言葉ですべてが伝わり、アマリアの目に涙があふれた。
エデルは静かに立ち上がり、そっとアマリアを抱きしめた。
二人の影が重なり、陽射しの中で静かに溶けあっていった。