表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者様、さようなら。わたくしは『装飾品』ではありません。  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/30

23.歩みを支えてくれた人

 産業振興式典が終わり、祝福の騒めきがまだ人々の耳の奥に残る中、アマリアは静かに会場を後にした。建物の片隅に設けられた控室へと歩を進めながら、アマリアは勲章の入った箱を抱きしめた。


 アマリアのために用意された控室の扉を開けると、甘やかな香りがふわりと鼻先をかすめた。


 室内には、花束の山。その向こうには、様々な大きさの贈り物が積まれていた。テーブルには、祝福の言葉が書かれているのだろう手紙が、色とりどりの封筒に収められて置かれている。


(これほど多くの方々が、わたくしを応援してくれていた――)


 アマリアは目の奥が熱くなるのを感じた。


「アマリア」


 落ち着いた低い声が、扉越しに聞こえた。


 アマリアはすぐに扉を開けた。


「エデル」


 アマリアはほほ笑むと、一歩引いて、エデルを控室の中へと招き入れた。


 この時間が、今日という日を、本当の意味で特別なものに変えるのだと、アマリアは密かに思っていた。


「王都中が君を讃えている。……君には、いつも驚かされてばかりだよ」


 ほほ笑むエデルの声は、かすかな熱を帯びていた。


 エデルは誰よりも近くで、ずっとアマリアの歩みを支えてくれた人だ。


「あなたが物流を全部取りまとめてくれたからよ。王都の店が上手くいったのだって、あなたの助けがあったからだわ」


「それでは、少しは感謝してくれているかい?」


 エデルの口ぶりは冗談めかしていた。


「ええ、とても感謝しているわ」


 アマリアはそっとエデルの手を取った。


 温かくて、大きな手だ。


 この手が、幾度となくアマリアの背中を押してくれた。


 エデルがいてくれたから、迷いながらも前を向けた。


 最初は取引相手として出会い、信頼を重ねていき――。


 今では、アマリア&エデル商会の共同経営者として、肩を並べて立つまでになった。


「なあ、アマリア……。もうそろそろ、アマリア・ルイドと名乗ってみないかい?」


 アマリアは一瞬だけ目を伏せたが、すぐにまっすぐエデルを見つめ返した。


「わたくしは、また一つ目標を達成したわ……。あなたの妻となることを拒む理由なんて、もうなくなったわね」


 エデルは、目を見開いたまま固まっていた。エデルにしては珍しく、言葉が出てこないようだった。


 常に冷静なエデルが、まるで少年のように不器用な沈黙を守っている。


 アマリアはそんなエデルを見つめながら笑みを浮かべた。


「あなたのそんな顔が見られるなんて、ちょっと新鮮ね」


「アマリア………」


 エデルの唇がわずかにほころぶ。


 エデルはなにかを言いかけたが、口を引き結んだ。


 部屋の外から、誰かを祝っているらしき人々の騒がしい声が聞こえてきたのだ。


『まだ、その時ではない』


 久しぶりに思い出した、アマリアの先祖、ディエゴの言葉だった。


 アマリアは黙って、エデルの手をもう一度、しっかりと握りしめた。


 そして、『その時』が来るのを待つことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ