23.歩みを支えてくれた人
産業振興式典が終わり、祝福の騒めきがまだ人々の耳の奥に残る中、アマリアは静かに会場を後にした。建物の片隅に設けられた控室へと歩を進めながら、アマリアは勲章の入った箱を抱きしめた。
アマリアのために用意された控室の扉を開けると、甘やかな香りがふわりと鼻先をかすめた。
室内には、花束の山。その向こうには、様々な大きさの贈り物が積まれていた。テーブルには、祝福の言葉が書かれているのだろう手紙が、色とりどりの封筒に収められて置かれている。
(これほど多くの方々が、わたくしを応援してくれていた――)
アマリアは目の奥が熱くなるのを感じた。
「アマリア」
落ち着いた低い声が、扉越しに聞こえた。
アマリアはすぐに扉を開けた。
「エデル」
アマリアはほほ笑むと、一歩引いて、エデルを控室の中へと招き入れた。
この時間が、今日という日を、本当の意味で特別なものに変えるのだと、アマリアは密かに思っていた。
「王都中が君を讃えている。……君には、いつも驚かされてばかりだよ」
ほほ笑むエデルの声は、かすかな熱を帯びていた。
エデルは誰よりも近くで、ずっとアマリアの歩みを支えてくれた人だ。
「あなたが物流を全部取りまとめてくれたからよ。王都の店が上手くいったのだって、あなたの助けがあったからだわ」
「それでは、少しは感謝してくれているかい?」
エデルの口ぶりは冗談めかしていた。
「ええ、とても感謝しているわ」
アマリアはそっとエデルの手を取った。
温かくて、大きな手だ。
この手が、幾度となくアマリアの背中を押してくれた。
エデルがいてくれたから、迷いながらも前を向けた。
最初は取引相手として出会い、信頼を重ねていき――。
今では、アマリア&エデル商会の共同経営者として、肩を並べて立つまでになった。
「なあ、アマリア……。もうそろそろ、アマリア・ルイドと名乗ってみないかい?」
アマリアは一瞬だけ目を伏せたが、すぐにまっすぐエデルを見つめ返した。
「わたくしは、また一つ目標を達成したわ……。あなたの妻となることを拒む理由なんて、もうなくなったわね」
エデルは、目を見開いたまま固まっていた。エデルにしては珍しく、言葉が出てこないようだった。
常に冷静なエデルが、まるで少年のように不器用な沈黙を守っている。
アマリアはそんなエデルを見つめながら笑みを浮かべた。
「あなたのそんな顔が見られるなんて、ちょっと新鮮ね」
「アマリア………」
エデルの唇がわずかにほころぶ。
エデルはなにかを言いかけたが、口を引き結んだ。
部屋の外から、誰かを祝っているらしき人々の騒がしい声が聞こえてきたのだ。
『まだ、その時ではない』
久しぶりに思い出した、アマリアの先祖、ディエゴの言葉だった。
アマリアは黙って、エデルの手をもう一度、しっかりと握りしめた。
そして、『その時』が来るのを待つことにした。




