20.ガツンッとやって、スカッとしたい(下)
「わたくしたち、アマリア様のことを調べていて、王都のご令嬢方とお友達になりましたのよ」
一人の女性が誇らしげに言った。
「その方たちは、アマリア様とは王立学院時代からのお付き合いで、何度かラクルベリに来られたことがあるとか」
アマリアはその言葉で思い出す。
この店が開店したばかりの頃、アマリアを応援するために馬車を連ねて王都から来てくれた、イザベルたちのことを――。
「王都にいるサンドロの取り巻きどもはさ。男も女もよ?」
別の女性が、声をひそめて言った。
「婚約者も見つからないし、家から見放されて廃嫡されたり、修道院送りになったり、果ては平民として前線やら炭鉱やらに送られたりしてるって話よ」
「アマリア様は高潔な方だから、その生き方でもって、いろいろなことをたくさんの人々に示そうとしているんだろうけどさ」
別の平民の女性が、どこか恥ずかしそうに笑った。
「王都のご令嬢方や、あたしらはさ、ほら……、アマリア様みたいな高尚な考え方なんて、とてもできないからさ」
「アマリア様に、この気持ち、わかるかしら……? あたしらはさ、ほら、こう……。ガツンッとやって、スカッとしたいのよ。それでさ、いろいろ小細工しちゃうの」
アマリアは目を瞬かせながら、目の前の女性たちを見まわした。
女性たちはまるで自分たちがやんちゃな武勲を立てた英雄のように胸を張り、満足げにうなずき合っていた。
中には満面の笑みを浮かべている者もいて、その笑いはまるで悪戯を成功させた子どものように無邪気だった。
「そうなのですか……?」
アマリアは、心底困惑した面持ちで答えるしかなかった。
確かにサンドロに対して、激しい怒りを感じたことはあるけれど……。
サンドロと一緒にいた貴族令息や、取り巻きの令嬢たちのことまで気にしたことなど一度もなかった。
女性たちは、そんなアマリアの戸惑いなどどこ吹く風とばかりに、他の女性たちと笑顔を交わしている。
女性たちの笑い声は、どれもが不思議なほどに温かかった。
「わたくしたち、これまではエデル様の親衛隊をやっていたんですけれど……」
一人の令嬢が、アマリアの両手をそっと握りしめた。
それから、まるで重大な決意を宣言するように、手にぐっと力を込めた。
「今日をもって、アマリア様の親衛隊になることにいたしましたの!」
アマリアは目を見開いた。
(親衛隊……?)
思い返せば、かつて耳にした『エデル親衛隊』の女性たちの噂は、エデルをめぐってつかみ組み合いの喧嘩をしたという、情熱的なものだった。
(あの方たちが……、わたくしの……?)
アマリアは完全に状況を飲み込めないまま、握られた手を見下ろす。
そこへ、エデルの鋭い声が飛んだ。
「アマリアさんの親衛隊だと言うのなら、アマリアさんに迷惑をかけるな! これでは店に客が入りづらいだろう! 早く出て行ってくれないか!」
エデルは鋭い視線を女性たちに向けた。
一瞬、場の空気がぴしりと凍りついたように思えたが……。
「そんな言い方をなさるなら、エデル様はアマリア様の親衛隊に入れて差し上げませんわよ!」
「なんという失礼な物言い! わたくしたちはアマリア様の親衛隊ですわ! アマリア様にご迷惑をおかけしたりいたしません! ちゃんと心得ておりますわよ!」
女性たちはそれぞれ胸を張りながら言い返し、次々と店内の商品を手に取っていった。
中には、「アマリア様親衛隊結成の記念の品が欲しいわよね」などと言いあいながら、仲良くお揃いのハンカチを選んでいる者まで現れる。
「このハンカチの刺繍を見て! とってもかわいいわ! これにしましょう! ほら、このクローバーの色が良いのよ! アマリア様の瞳の色に似ているわ!」
「本当だわ! すごく素敵ね!」
会計カウンターの前には行列ができ、レアが目をぱちくりさせながら一人で対応していた。
「親衛隊員のたしなみですわ! わたくしたちは当然、お店の売上にも貢献いたしますわよ!」
アマリアはエデルの横に並び、その光景を見つめていた。
騒がしい。けれど、不思議と温かい。
アマリアには女性たちの声や行動の奥にある善意や応援の気持ちが、とてもありがたかった。
「あたしたちの親父とか兄弟がさ、ラクルベリ警備騎士団にいるんだよ」
一人の女性が、ちょっぴり誇らしげに胸を張った。
「だからさ、アマリア様の店のまわりは、もっと気を付けて、見回りの回数も増やすよう言っておくからさ。安心していいよ!」
「それにしても、サンドロってなんなの……。本当に怖いわ……」
「いつか突然、こんな恋文を送りつけてきそうじゃありませんこと? 『君はまだ私を想っているのだろう? 昨晩、夢で君の姿を見た。君が私のことを考えている証拠だ』とかなんとか……」
一人の令嬢が、芝居がかった口調と動作で言った。
まわりの女性たちが「うわっ、ありそうだわっ!」などと盛り上がりながら笑い出した。
アマリアは苦笑しながら、その様子を見守っていた。
思えば、半月ほど前から、ここにいる女性たちは数人で連れ立って何度も買い物に来てくれていた。彼女たちは商品を買ってくれるだけでなく、アマリアや店員たちにお菓子や飲み物など、さまざまな差し入れまで持ってきてくれていた。
今日、エデルがこの店を訪れた理由も、今ならばわかる。
かつてエデルの親衛隊だった女性たちが、大勢でアマリアの店に押しかけようとしている――。
エデルはそんな噂を聞きつけて、アマリアを守るために来てくれたのだろう。
(皆様……。それに、エデル様も……)
アマリアは女性たちとエデルの気持ちが嬉しくて、胸の奥がさらに温かくなるのを感じた。




