20.ガツンッとやって、スカッとしたい(中)
「わたくしたち、最初はエデル様がアマリア様に騙されているんじゃないかって思ってしまって……」
一人の令嬢が、ドレスのスカートをきゅっと握りしめながら、正直に打ち明けた。
「それで……、みんなで王都にいる知り合いたちに手紙を出して、アマリア様のことを調べたんです……」
他の女性が顔を伏せて、震える声で続ける。
「ごめんなさいね……。勝手に調べたりして、本当にごめんなさい……」
もう一人が言葉を詰まらせながら、涙を拭う。
別の女性が、目を輝かせながらアマリアの前に出た。
「でも、わたくしたち、わかったんですのよ!」
その声には大きな感動がこもっていた。
「アマリア様が『不屈のディエゴ』のご子孫で、サンドロなんて捨てて、ご自分の誇りを守るために、このラクルベリに来てくださったんだって!」
その瞬間、数人の女性が、感極まったようにアマリアに抱きついた。
「アマリア様!」
と叫ぶ声に、あるのは敬意と親愛の念だけだった。
「ラクルベリに来てくださって、とてもうれしく思っております。我が家の治めるラクルベリを選んでいただき、誇らしい気持ちでいっぱいです。ありがとうございます」
領主の娘の令嬢が、アマリアを見つめて柔らかくほほ笑んだ。
「アマリア様にこの地を選んでいただけたこと、わたくしたち、本当に誇りに思っているんです!」
令嬢の侍女も、力強く言葉を足した。
アマリアの胸の奥が、二人の言葉でじんわりと熱くなる。
「そうよ、私たち、嬉しいの!」
「よく来てくれたね!」
「ラクルベリは、アマリア様を歓迎してるよ!」
他の女性たちも口々に声を上げ、笑顔を向けてくる。
(ああ、これは夢かしら……?)
アマリアは、あふれそうになる涙をごまかすために、そっと何度も瞬きをくり返した。
「エデル様、『それがどうした』ってのは、どういう意味なんだい!?」
「アマリア様がどれだけお辛い思いをされた末、ラクルベリに来られたのか、ご存じないのですか!?」
先ほどまでの熱烈なアマリアへの称賛から一変し、数人の女性たちがエデルを非難するように詰め寄った。
エデルが迷惑そうに軽く肩を竦めると、女性たちはアマリアの方にくるりと向き直った。
「アマリア様のお相手として、あのような調査能力の男で本当に大丈夫なのかしら……」
「エデル様は、たしかに魅力的なお方ではあるけどさ……。すごく知的で誠実ではあるけどね……。腕っぷしの方はどうなのさ?」
数人の女性が腕を組み、首を傾げた。
「だからって、田舎の騎士じゃあ、アマリア様とはまったく釣り合わないわよ!」
「王子様方なら……。ああ、でも、もうどなたもご結婚されているのよね……」
「他国の王族と結ばれるのもね……。アマリア様が他国になんて行ってしまわれたら、わたくしたち、心配で夜も眠れませんわ!」
また別の女性が、物語の主人公さながらの悩みのポーズで、手を額に当てている。
「王国の騎士団長も副団長も、たしか妻帯者だって聞きましたわ……」
「ああっ、もうっ、選択肢がどんどんなくなっていくじゃないの……!」
何人かの女性たちは、ため息をついたり、唸ったり……。
まるで王族の政略結婚を真剣に検討している、宮廷会議のような様相を呈していた。
エデルは困惑した表情を浮かべながら、少し後ろに下がった。
エデルも『商談の場』という名の戦場ならば慣れていた。だが、これは、まったく別な意味での激戦地だった。
アマリアは苦笑しながら、大騒ぎしている女性たちを眺めていた。
どこかほほ笑ましく、そして、少し恥ずかしい。
けれど、心の奥が温かくなるような光景だった。




