25 辛くて苦しい3年
資源の確保に農作物の収穫の安定。
これらがなされるまで、2年ほどの時間がかかった。
特に資源の確保が難しく、これらが必要なだけ手に入るようになるのは更に時間がかかった。
その間、人々は節約を余儀なくされた。
電気は原子力と水力のおかげで十分以上に使えていたが。
それだけで全てを補う事は出来ない。
資源がある程度行き渡るようになるまで、異世界に来てから3年がかかった。
この間、備蓄していた資源の減少におびえる事となった。
手に入った資源が、この減少をゆるやかにしたが減っていくのが止まるわけではない。
ようやく減少が止まるのに3年がかかった。
ただ、それでもまだ必要なものを作るには遠かった。
得られる資源で作れるのは1970年までのもの。
知識などは2025年のものまであっても、資源や材料が作れない。
現在残ってる機器を用いれば製造は出来るが、壊れたらそこまでだ。
無理は出来なかった。
ここが問題だった。
素材や原料だけではない。
これらを作る工作機械にも限界がある。
最高のものを作れるのは、最高の道具だ。
この道具がない。
あっても、壊れる可能性を考えると、おいそれと使えない。
このため、どうしても作れるものに限界が発生する。
今の日本は、持ってる本来の科学や技術を使う事は出来ない。
出来る範囲で最大の効果を求めるしかなかった。
異世界にやってきてからの3年間は、このための試行錯誤の連続だった。
社会基盤や産業基盤は残ってる。
だが、食料や資源の備蓄は、日本国内にあるものだけ。
一応、買い付けが完了していた海外の資源などは確保されていたが。
これらを含めても、残りは少なかった。
こうした備蓄は、もろもろあわせても、1年あまり。
様々な事を節約して、生活を不便にして切り詰めても、2年分になるかどうか。
そう言われるほど日本の食料や資源事情は厳しいものがあった。
何一つおろそかには出来なかった。
これらを最大限に効率的に用いなければならない。
なので、日本は政府の機能を最低限に絞った。
一見すると矛盾するかもしれない。
だが、これが正解だった。
なぜなら、政府の統制によって物事を動かせば必ず失敗するからだ。
社会主義政策や共産主義国家が示している。
国家が全てを独占すればどうなるか?
破滅しかもたらさない。
日本でいえば、軍国主義。
かつての同盟国のナチスや、ファシズムのイタリアなどがあてはまる。
国家に全ての権力と資源を集中させた結果、悲惨な終わり方をしている。
確かに一面だけ見れば上手くいってるように見えるだろう。
だが、成功に思えた出来事には、これを大きく上回る失敗がある。
かつて、ソ連では鉄鋼生産量が急激に成長した事があったという。
一見すると成功だ。
だが、他の場面で多大な衰退や犠牲が発生していた。
この利益と損失を足し合わせれば、大きな損害が残る事になる。
同じ事をこの異世界で行うほど日本は愚かではなかった。
政府が全ての指揮をとる事は、最終的には多大な無駄を発生させる。
過去の事例が示すこの事実を重く見て、政府機能はむしろ制限した。
実際にいくつかの機能は切り捨てた。
そもそもとして、税金や社会保障費などの国民負担は限界を超えて増大していた。
とある調査では50%を超えていた。
別の調査では60%を超えていたともいう。
この負担をまずはなくさなければならない。
国民が負担の大きさに潰される前に。
やりたくても出来ないという事実もある。
異世界転移において、政府の政治家と役人の多くは消滅した。
日本に縁のないもの、他との縁が強いものが地球に残ったためだ。
これらは縁の強い国や地域に移動し、そこで生きている。
そんな政府の各省・各庁がまともに機能するわけもない。
大陸への開拓事業などは他に任せるしかなかった。
もとより政府は事業の多くを民間に任せるつもりでいた。
なので、この状況は渡りに船だった。
どうせならと政府機能を大幅に削減。
必要な事に絞れたのだから。
このため、日本政府は政策の多くを切り捨てた。
出費を抑制するためだ。
人口が2000万人に減っているし、これは必要な措置だった。
単純に、国力は6分の1にまで低下している。
ならば、税収も6分の1。
この状態で今までのような出費が出来るわけもない。
勝手に作られる、必要と言い張る政策に合わせるのではない。
今ある税収の中で出来る事。
国民が無理なく支払える税金の中で出来る事。
これを目指すしかない。
そんな日本の税収は、7兆円。
異世界にやってきた当初はこれだけしかない。
これで出来る仕事をやるしかないのだ。
ただ、莫大な政府の借金の返済は出来なくなる。
やむなくこれは凍結するしかなかった。
出来れば踏み倒したいが、そんな事出来るわけもない。
経済が完全に破壊される。
国内からの借金だから問題は無い、などという戯言が通じるわけもない。
国外からの借金はなく、国内からの借金を続けた国も財政破綻したという事実がある。
返すべきものは返さねばならない
だが、今すぐの返済は出来ない。
なので、返済の停止という最悪よりはマシという選択をする事になった。
政府の借金、1000兆円以上。
これが異世界転移した日本の大きな足かせになる。
これについては、転移前の政府や借金を支持した者たちは恨まれる事になる。
こうした無駄な負担や制約をかけられながら、日本は異世界での活動を開始していった。
延々と政府の、国の借金を増大させた者たちへの恨みと怒りがつのる。
幸か不幸か、これらをやらかした者たちは転移の時に地球に残る事になった。
日本との縁がない、地球や地球上の他の何かと縁が深いからだ。
おかげで転移後に同じような愚行を繰り返す事はなかった。
だが、憤りをぶつける先も無くなった。
これはこれで鬱憤がたまってしまう。
困ったものである。
それはそれとして、政府は役割を大きく絞る事になった。
電気・ガス・水道といった生活基盤や社会基盤の維持を旨として。
加えて、生存圏を守るための軍事や治安、防災に務めていく事になる。
開発や開拓は企業や個人が行う事となった。
実際、各産業の技術や知識は企業がもってる。
これらに任せるしかない。
そもそもとして、政府とは定額サービスでしかない。
規定の料金を支払う事で、治安や生活・社会基盤を保つ。
最も古いサービス業といえるかもしれない。
その役割に戻っただけである。
それを公だか言い始めるからおかしくなる。
政治など、国民という最大の市場を相手にした商売でしかない。
これを商売ではなく、公共などと言い始めるから責任も何もなくなる。
国家の中心、国民の代表などと考えるから無責任にも傲慢になる。
政治を神のごとくに錯覚しているのだから当然だろう。
このような蒙昧から解放され、政府は本来の役割に立ち返った。
国民相手のサービス業。
支払ってもらった金の範囲で事業を行うと。
この範囲で最大の成果を出そうと。
その為に、料金の見直しを行い、提供するサービスの見直しを行った。
全てを自分たちでやる必要もないし、出来るわけもない。
任せるべきところは企業や事業者に任せ、政府は領域内の安泰をはかる。
このためにまずは国民の負担を極力減らす事にした。
税金や社会保障の削減がこれである。
この上で、必要な事業を行っていく。
必要なのは産業の維持。
このための資源獲得。
生活や社会の基盤を保つにはこれらが必要になる。
そして、怪物の撃退・殲滅。
国内に入ってくるこれらを、資源獲得の妨害になるこれらを取り除かねばならなかった。
国民相手のサービス業として。
こうして政府は手持ちの少ない資源の活用方法を考え、必要な所に集中させていった。
なお、金銭はいくらあっても意味がない。
便利な道具ではあるが、これがいくらあっても意味がない。
大量に金銭があっても、食料や資源が増えるわけではないのだから。
大量の金銭は無駄なインフレを起こして経済を破綻させるだけである。
これをまずは資源の獲得に用いていき。
必要な設備や機器をそろえる為に使っていった。
大陸にわたり、大陸に活動拠点を作り、資源を核とするために。
持てる資源の多くをここに費やした。
各産業においては企業や事業者に仕事をまかせた。
代金として必要な資源を提供して。
これらを動かすための計画も練り上げていき。
事前の調査も行っていった。
道中の安全確保のために自衛隊も用いながら。
資源地帯にいる怪物を排除して、安全圏を作り、採掘用の機材を設置していった。
採掘した資源を運搬する鉄道を敷いて、港まで運び込んだ。
港から日本の工場へ資源を運び製品を作り出していった。
港も3年の中でなんとかつくりあげた。
今も拡大と拡張を続ける港は、多くの船が出入りしている。
護衛の小型戦闘艇に守られて。
こうして出来上がった製品が人々にもたらされる。
人々は手にした金銭でこれらを買っていく。
ここで減税が生きてくる。
手元に残る金銭が多いから、人々の購買力も確保されている。
製造・販売する企業も同じだ。
売り上げの多くを事業にまわす事が出来る。
採掘にしろ加工にしろ製造にしろ運搬にしろ、自分で使える分が大いから事業の維持・拡大も楽になる。
政府が金を牛耳っていたらこうはならない。
金銭そのものは何かを生み出すわけではないが、交換の仲立ちとなる便利な道具だ。
値段がついてるものならば何でも交換できる。
この交換券で一人一人が必要なものを手に入れていく。
配給を行うよりも一人一人に必要なものが行き渡る。
もちろん、物資が残り少ないうちは、政府備蓄などは配給となっていた。
しかし、これが適切なわけがない。
物資を独占するものは必ず己の欲望にのみ用いる。
日本の軍国主義をはじめといた独裁体制が証明している。
このような配給状態を早々に脱却するために、各企業や業者は動いていった。
そこで働く一人一人がだ。
おかげで、最初の一年で採掘が始まり、少量ながらも物資が手に入るようになった。
2年目には足りないものはほぼ無くなった。
あえていうならば、人手が最も足りなかった。
3年目になれば、地球にいた頃とほぼ同じくらいの生活水準を取り戻していた。
もっとも、手に入る資源の中でではあった。
それでも日本は異世界にてとりあえず文明を維持する事に成功をした。
周りを怪物に囲まれながらも。
かつての水準、2025年段階の科学力を取り戻すのはまだ先になる。
日本近隣に存在しない資源が必要になるからだ。
それらを手に入れるのはまだ先になる。
なにせ、今はまだ人手が足りない。
人口2000万人では、日本近隣の資源を確保するだけで限界だった。
人手が足りないのだ
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