第5話「拠点発見と、はじめての別行動」(中編)
「ふぅ……」
焚き火の赤い火が、谷底の影を揺らしている。
肉を焼き終え、食べ終えた俺は、岩に背を預けて一息ついていた。
(まさかゴブリンを倒すだけじゃなく、スキルまで手に入るとはな……)
——《短剣使い(弱)》
武器を持った敵を倒せば、それに応じた技術も手に入る。
しかも、食えば食うほど強くなる。
なんてシンプルで、なんて過酷な世界なんだろうな。
「……リピーナ、大丈夫か」
心配は尽きなかった。
あの女神はふわふわしてるくせに、時々ちゃんと真面目なことを言う。
(でも……あいつなら、無事だって信じてる)
俺は立ち上がり、周囲を見渡した。
谷底は岩と草に囲まれた窪地で、見たところ動物の気配も薄い。
けれど、上を見上げれば、崖は高く、道はない。
「登るしかねぇか」
手頃な岩を探し、登り始める。
滑り落ちないよう慎重に、時に木の根を掴みながら、少しずつ進む。
何度も手が滑り、何度も息が上がった。
それでも——
「……はっ、はっ……やっと……見えた……っ」
木々の隙間から、やっと見慣れた地上の風景が覗いた。
そして——
「ただいま、地上……!」
俺は地面に這いつくばるようにして、崖の縁を越えた。
空が広い。
風がやわらかい。
この世界の景色が、こんなに美しく見えたのは初めてだった。
(リピーナ……待ってろよ)
---
古びた小屋に戻る道すがら、俺は何度も彼女の名前を呼んだ。
「リピーナー! おい! 無事かー!」
返事はない。
でも、ここにいないなら、きっと小屋に戻っているはず。
(無事でいてくれ……頼む)
やがて、見慣れた廃屋が視界に入る。
入り口には——
「……寝てる!?」
銀髪の小さな体が、入口の陰で丸まっていた。
座布団のような布の上、すぅすぅと寝息を立てている。
「リピーナ!」
> 「ん……バル? あ、生きてた。よかったぁ……」
「お前、俺のこと心配して——」
「してたよ? すっごくしてたの。でも、安心したら眠くなっちゃって……」
「……はぁ」
胸の奥に詰まっていたものが、ふっと軽くなった。
怒る気も起きない。むしろ、心底ホッとした。
「おかえり、バル」
「……ただいま」
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拠点に戻った俺は、持ち帰ったゴブリンの短剣を修理し、使えるようにした。
装備があるだけで、心強さがまるで違う。
焚き火の炎が揺れる小屋の中で、俺は新しい力を手に入れた実感を噛み締めていた。
(明日は、もっと戦える気がする)
そして何より——
(こいつと、一緒にいられるなら、俺はきっとやれる)