女神
西の白いドラゴンであるセンテーフィさんに身体を蝕んでいた瘴気の浄化のお礼にと頼んだ神との対話が、あっさりと認められて神が降りてきてくれた
崇められているだけあって綺麗な人だなと思っていると
「はじめまして、私は女神アシーミ
対話を望んでくれて感謝します
この世界に迷い込んだ貴女に説明したかったの」
「……私、帰れるですか?」
「喋るのが不自由なのですか?」
質問に質問で返すなと思いつつ、この世界の言葉は勉強中だと言うと言語理解能力を上げてくれた
一瞬でアステリ達とスムーズに会話できるようになっていた
脱線しそうだった話に戻り再び質問すると
「帰すことは正直、難しいです
ドラゴン達によって暗がりの森と呼ばれている場所に瘴気を集めていたのですが最近、被害が出ているんです
この世界だけに留まらず空間にまでヒビが入り始めていて貴女が住んでいた世界と繋がってしまった
貴女が迷い込んでしまった原因です
直接見せましょう」
説明の途中でアシーミ様は持っていた杖で地面を軽く叩く
すると地面が透明になって暗がりの森を上空から見ているような映像が映し出された
アステリ達が小さく驚いた声が出たのが聞こえた
杖で指し示された場所を見ると瘴気の中にヒビのようなものが空間に入っているのが見える
「ミヤを見つけたの、こっちだったな」
あんなに分かりやすいのにヒビに気づかなかった
そう思っているとアステリが私を助けてくれた場所の上に立った
私は感覚としては真っ直ぐにしか走っていないからヒビから直線で繋がったことに妙に納得してしまった
十中八九このヒビから私は来てしまったのだと
「これ以上、迷い込んで来る方が居ないように今は私たちで一時的に塞いでいる状態です
また開けてしまえば誰かが迷い込んで来てしまうでしょう
このまま塞ぐのが良いと私たちは判断しました
だから貴女を帰すことは難しいのです」
ーーそっか、やっぱり…
セリーニさんの会話を聞いてしまった時から分かってはいた
いたけど、どこかで望んでいた
帰れるんじゃないかって
戻れるんじゃないかって
また何食わぬ顔で
家族に会えるんじゃないかって
頭に浮かぶ家族の顔に視界が滲む
もう会えない家族に謝ることしかできない
そう思っていると不意に軽く背中を叩かれた
頭を上げればアステリとセリーニさんが隣に居てくれる
見捨てないと言ってくれたことが嘘じゃないのだと嬉しくて涙が止まらなかった
そのまま数分泣いていただろうか
落ち着きを取り戻し鼻を啜りながら私は小さく謝った
「ほら使え、ひでぇ顔だぞ」
アステリが持っていたであろうハンカチを手渡してくれた
一言余計だとセリーニさんが小さく小突いていたけど気にしていない
今は本当に酷い顔だと思っているから
「…あの…私の家族はどうしてますか…?」
どうしても気になって訊いてしまった
二ヵ月近く連絡を取らないなんてことは今まで無かったからと思うと家族は行方不明になっている私を探してくれていると教えてくれた
もう会えないと伝えたいと言うとアシーミ様は異世界への干渉はできないと言った
でも探し続けてもらうのは辛いから事故か何かで亡くなったということにしてもらえないか
そう言うとアシーミ様は目を丸くした
アステリが自分を殺すということだ、良いのかと訊いてきた
「もう私には帰ることはできないもの
死んだことにしてもらったほうが心残りが無くなって普通に生活できると思う
それに、こっちではちゃんと生きてるってアステリとセリーニさんが認識してくれるでしょ?」
私の頑張りを見てくれていて心配もしてくれる
医務室の皆の顔を思い出して小さく笑いながらそう言った
アステリは目を丸くした後セリーニさんと顔を見合わせ
「…そうだな
ミヤはもう医務室に居なくちゃならねぇ戦力だから今さら別の場所に渡してやれねぇよ」
「うん、真面目で物覚えも早いってフィトーのお墨付きを貰ってる
率先して仕事をしてくれるし治癒魔法も上手くなってきてるようだし我々もミヤには助けられてるんだ
頑張ってる姿を、ちゃんと見てるよ」
笑顔でそう言ってくれた
それが嬉しくて三人で笑い合うとアシーミ様が私の望み通りにすると言ってくれた
神々は手紙みたいなもので交流しているらしい
私の望みを無碍にはしないように伝えると微笑んでくれた
「他にはありませんか?
叶えられるものは叶えましょう
貴女が迷い込んだのは私たちが事態に気づくのが遅れたせいでもあるのですから」
「ありがとうございます
私の…前に迷い込んだ方たちが居たのは知ってますよね
その方たちは、蘇生、みたいなことはできませんか?」
「…難しいですね
私たちの世界の人間ではありませんから
あちらの世界の神にはできるかもしれませんから合わせてお願いしてみましょうか」
それなら、できないとしても家族のもとに帰らせてほしいとお願いした
状況の理解もできずに亡くなっていったであろうことを忘れないでほしいと念を押すとアシーミ様は約束してくれて一安心する
ただの自己満足だけど、これで夢は見なくなると思う
それと言語理解能力を上げたままにしてもらった
そして話を戻しても良いだろうかとアシーミ様が確認してきたから頷いた
「それで私たちが塞いではいますが瘴気を消さないと根本的な解決にはなりません
そこに何の因果か分かりませんが貴女は召喚されていないにも関わらず聖属性魔法が使える
なので、お願いがあるのです
この世界の人間には瘴気に対抗する力は無い
ですが聖属性を使える貴女は瘴気による影響は一切受けない
暗がりの森を始め蔓延っている瘴気を消し去っていただけませんか
受けていただけるなら貴女には聖女の称号を与えましょう」
そういえば、と肌に這う気味が悪い感覚が暗がりの森であったと思った
私の中に入り込もうとしていた瘴気だったのだと、ようやく分かった気がした
多分、大蛇に食べられてしまった男性も聖属性が使えていた
私よりも森の中に居たはずなのに身体に変化が無かったから
だけどこういう時、普通の人なら選ばれた人間だと喜ぶところなのか
それとも漫画や小説のような展開だと興奮するのか
「……お断りしても良いですか?」
私はそのどちらでもなかった
聞いたアシーミ様とアステリが驚いて大声を出してセリーニさんも目を丸くしていて言葉のチョイスを間違えたと思った
慌てて、そうじゃないと否定するも完全に否定もできなくて口籠る
「目立ちたくないので…」
「…あぁ、なるほど、ミヤらしい理由だね」
この世界に来てから数日後にセリーニさんから改めて伝えられていた
フォティノース王は私に無関心であると
世話は一切しないと決めているらしいと
別に国王の放任については文句は無かった
私の突然の転移に、この国の人たちは関わっていないと分かっていたから
だから追い出されないのであれば良いと、その時思ったし変に目立たなくて安心したくらいだった
それを伝えていたからセリーニさんだけが納得してくれた
私は今のまま普通に暮らせればいいから漫画やアニメで見ていたように目立ちたくはない
「なるほどね…
ってことは聖女って呼ばれるのが嫌ってだけで瘴気の浄化はやっても構わねぇのか?」
私が頷くとアステリは大きく溜息を吐いた
アシーミ様も安心したように息を吐いていて、今まで静かに聞いていたラハニスも笑っている
浄化さえも断られているのだと思ったらしく言葉足らずだったことを謝った
「でもミヤ、これから教会の近くで瘴気に侵されていた人を浄化するんだろう?
彼らは多分嬉しさでミヤの存在を言いふらすと思う
聖女だと知られないようにするのは難しい」
セリーニさんに言われて確かにそうだと気づいた
魔物を増やす危険性のある暗がりの森も放置しておけない
瘴気に侵されている人たちを放っとくのも嫌
だけど不必要な大袈裟な名誉はいらない
私って、わがままだなと思いつつ何か良い策はないかなと考える
「…フィトーさん…」
そこで、ふと上司であるフィトーさんの顔が浮かんだ
彼が作っている浄化のポーションに私の魔力を混ぜたりできないだろうか
調合や薬学に関して私よりも詳しいから自作しているポーションだって、たくさん持っている
そう言うとセリーニさんは少し考えた後
「…確かに魔力はポーションに込めることはできる
彼に訊いてみて損はないと思う
だけど良いのかい?
聖属性が使えることを教えてしまって…
俺は信頼しているから大丈夫だと思うけど」
セリーニさんが心配そうに私を見ながら言ったけど私は笑って力強く頷いた
この世界に来て言葉も分からない異世界の人間を雇ってくれた人
怪しかっただろうに優しく受け入れてくれた人
瘴気をどうにかしたいと奮闘している人
私が見るフィトーさんは、そんな人だ
だから、きっと大丈夫だと信じている




