ラハニス
身体が重いと思いながら意識が浮上し目を開ける
最近ようやく見慣れてきた天井が見え痛む頭を抑えながら起き上がった
見覚えのある医務室に何故か安心している自分が居る
何で、ここに居るんだっけ…?
えーと……ドラゴンに会って瘴気を消せた気がしたんだけど…
そこからの記憶が無くて首を傾げるとドアを開けてルルーディが入ってきた
呼びかけると彼女は持っていた水の入った桶を床に落とした
目を丸くして私を見つめている
と思えば勢いよくフィトーさんを呼びに走っていった
そんなに慌てたら転びそうだと思いながらベッドから足を下ろすとバタバタと足音が響きフィトーさんが入ってきた
ベッドに座る私を見て安心したような顔をしていた
「良かった…ミヤ、調子はどうかな?
手足が痺れるとか頭が痛いとかあるかい?」
「え、と少し頭痛い、です
あと怠い重い…?」
「ふむ…触らせてもらうけど良いかな?」
頷くとフィトーさんは私の頭に触れ軽く魔力を流した
いつもは平気なはずなのに何故か視界が揺れ気持ち悪くなる
それに気づくとフィトーさんは、すぐに止めてくれた
「まだ魔力を渡せることはできないね
自力で回復するのを待つしかないから、しばらく過度に動くことはしないように
ここで働くのも絶対ダメ
その間ルルーディ頼むよ」
「任せてください!」
テキパキと指示を出すフィトーさんと意気込むルルーディ
話についていけず何があったのか訊くと二人は目を丸くした
どこまで覚えているのか訊かれドラゴンの瘴気を消せたところまでだと答える
二人が説明しようとするとタイミング良くと言って良いのか分からないけどアステリとセリーニさん、そしてレモニーさんが入ってきた
そして私が起きているのを見るや否や三人は安心したように脱力していた
レモニーさんに至っては涙目になっている
え、もしかして私…死にそうだった…?
皆の様子から、そんな考えに辿り着き訊くと全員が頷いて答える
そこからはセリーニさん達が説明してくれたけど、なんでも魔力を使いすぎて魔力枯渇症になっていたらしい
持っている人間にとって魔力は体温と同じように無くてはならないもの
あの場に持っていった魔力回復用のポーションだけでは足りず急いで国に戻ったんだとか
それから三日間、私は眠り続けていたらしい
「もう目を覚まさないかと思いました…っ」
レモニーさんがぼろぼろと泣きながら私の手を握ってくれた
他の皆も心配そうに私を見つめていて申し訳なくなってしまう
謝ろうとするとアステリがわざとらしく咳払いをした
こういう時はどうするんだっけ? と言われ少し考えた後
「助けてくれて、ありがとうございます」
そう言うと皆、笑顔になってくれた
そのまま魔力を回復させるため私は医務室に泊まることになりアステリ達は自分たちの持ち場に戻っていく
フィトーさんとルルーディが診てくれながら二日が経ち回復することができた
頭痛も怠さも無くなり、お許しが出たから今日から普通に動こうと意気込むとセリーニさん達が医務室に入ってきた
「実は街の門の外に緑のドラゴンが居るんだ
何か話があるらしいんだけどミヤが回復するのを待ってもらっててね
行ってもらえるかな?」
私が倒れた後ドラゴンが背に乗せて国まで届けてくれたと聞いていた
本来なら三日かかる距離を一瞬で飛んでくれて間に合わないかもと思った私の処置ができたらしい
回復したら、お礼を言いに行きたかったのだけど、まさか待ってくれていたと思わず急いで外に向かった
【おぉ、もう良いのか?】
私に気づくとドラゴンは嬉しそうにしてくれた
待っていてくれたお礼を言った後、私を運んでくれたお礼も言うと
【礼を言うのは我のほうじゃ
瘴気が無い身体が軽くてのぅ
また飛べると思ってなかったから嬉しいんじゃ
ありがとうな、ミヤ】
優しく笑うドラゴンの言葉に嬉しくなる
その後も何か話すことがあるみたいだけど一緒に来たレモニーさんが口を開いた
ドラゴンの言葉が分からないから、どうにかできないかと
確かに私以外に会話できないし通訳するのも大変だし可能なら、ぜひお願いしたいと私も言うと
【ふむ…そうじゃのぅ
…久しく使っておらんから…ちょっと待ってくれ
そこの男で良いか】
そう言いながらドラゴンはレモニーさんの後ろに居たセリーニさん達を見ると爆発音と共に一瞬で姿を変える
でも、その姿を見て私たちは目を丸くして固まってしまった
「……はっ⁉︎ 俺っ⁉︎」
人間で間違いなかったけどアステリに瓜二つだったからだ
これで良いか? とドラゴンが自分の身体を見ながらレモニーさんに訊く
その言語は私たちが話しているものと同じになっていた
レモニーさんが慌てて頷くと同時にセリーニさんは変身魔法を見れたことに感極まっていた
土属性を極めた者しかできないらしく人間では魔力消費量も多くて、まず難しいんだとか
「ちょっと待て!
何で俺の姿になってんだよ!」
「変身魔法というのは見た人間や動物、魔物の姿にしかなれんのだ
故に目の前に居る主らの誰かでないと姿を変えられぬ
我はオスなのでな、ミヤ達に変身するわけにはいかぬだろう?」
腕を組み答えるドラゴンにアステリは顔を顰めた
セリーニさんが訊くと自分が二人居るみたいで落ち着かないらしい
ドラゴンは妙なことを気にするのぅと目を細めたけど私も気になってしまうのは事実
「髪の色、長さ変わる、できないですか?」
「ふむ? それだけなら可能じゃな」
そう言うとドラゴンは髪を長くして緑色に変えてくれた
これで雰囲気だけでも変わったと思うとアステリには納得してもらって本題に入る
信用できる人間にしか聞かせたくないから、この場に座って話したいと防音魔法を所望されアステリ達を信用しているか訊かれた
私が皆を見ながら頷くとアステリが防音魔法を張ってくれて全員で草の上に座る
他言しないようにと念を押され、どんな話なのか緊張で生唾を飲んだ
「まず我の名はラハニス
土や木属性の魔法が得意な東の緑のドラゴンじゃ
改めてよろしくな、ミヤ」
「こちらこそ」
「呼び捨てで構わないからの
それでミヤよ、主もしや
この世界の人間ではないのではないか?」