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ドラゴン

ドラゴンの住処だろう山の洞窟を進んでいくにつれ瘴気が濃くなっていく

と同時に唸り声のようなものも聞こえ始めた

ここのドラゴンは緑色で温厚な性格だと伝えられているらしい

私たちに気づいて威嚇で唸ってる訳じゃないだろうとセリーニさんが言った

なら唸っている原因が他にあるんだと考えているとドラゴンが寝ている場所に着いたらしい


「え、まさか…」


「おいおい、マジかよ…」


前を歩いていたアステリとレモニーさんが驚いた声を出した

どうしたのかと私たちも見てみると目を丸くした

ファンタジーの世界にしか存在しないドラゴンが目の前に居るのも私には驚くことだけど


ドラゴンの身体が黒くなり始めている


綺麗な緑の身体が瘴気に蝕まれていて何よりドラゴンが苦しそうに唸っている原因が分かり、どうするかアステリが小声で全員に訊く

だけど浄化魔法は、あくまで予防でしかないのだそうで後からかけても意味がないらしい

つまりドラゴンが魔物化するのを黙って見ているしか私たちにはできない

苦しそうにしているのに何もできない事実に眉を寄せた


【……誰か居るのか?】


すると今まで聞いたことのない男性の声が聞こえた

もう一度、誰か居るのか訊かれ目を丸くしたまま慌てて返事をする

だけど私が声を出したことに何故かセリーニさん達が驚いていた

声が聞こえたということを伝えても全員聞こえていなかったらしく首を傾げられた

誰の声なのか分からないでいると再び話しかけられ顔を見せてくれとお願いされる

もしかしてと思いながら恐る恐るドラゴンに姿を見せると


【いつ以来かのぅ、我の声が聞こえる人間に会えたのは】


嬉しそうに柔らかく笑う目と視線が合った

下りてくるように言われ戸惑いながら皆に説明するとアステリが水魔法でドラゴンの前に連れていってくれた

お礼を言って私たちを見下ろすドラゴンに向き合う


「…はじめまして、ミヤ言います

話しかける貴方ですか?」


【うむ、久しいのぅ、喋れる人間に会えたのは百年ぶりか

……いや、もっと前だったか?】


首を傾げるドラゴンが、やっぱり話しかけている

その事実をセリーニさん達にも伝えつつ話を続けた

身体が黒くなっているのは瘴気のせいだと思うんだけど何でそうなったのか訊く


【…我らドラゴンが魔法で瘴気を集めたのは知っておるかの?

それは魔法で維持し続けなければいけないんじゃが…我らも魔力は無限ではないから漏れ出してないか定期的に確認しておったんじゃ

その際に少量ずつ吸い込んでしまっておったんじゃろうのぅ…

数百年分の溜まった瘴気で身体が思うように動かんのだ】


「……っ…浄化魔法、使えないですか?

予防なる聞きました」


【我は木や土の魔法が得意での…光も闇も上手くできん

魔力を黒いのに渡して瘴気をまとめるのを手伝ったに過ぎんのだ…

白いのも渡しておったし残り少ない魔力を我のために使えとは言えんだろう】


「…ドラゴン同士はあまり仲良くはないと… 歴史書に詳しくは書かれてはいないが、それでも瘴気で苦しむ相手を見過ごすことはしないはずだ」


通訳するとセリーニさんが言った言葉に緑のドラゴンが同意した

何百年も会っていなければ生存確認くらいはするらしく他のドラゴンも同じように瘴気で苦しんでいるのかもしれないという結論になる

そう言った後ドラゴンは起こしていた頭を再び伏せ、かなり苦しそうにしていた

もう普通に起きていることもできないらしく苦しそうにしているのに見ているだけなんて何かできないのかと拳を握る


他のドラゴン達も、こんな状態だとしたら……っ


前の世界では異世界に行ったらチート級の能力を与えられていたりする物語はあった

でも現実は甘くなくて私は使い方を学んで、やっと魔法が使えるようになった

もちろん特別な道具なんてのも持ってない

人間に対して少し治療法を知ってるくらいで

むしろ全属性を使えるアステリのほうがチートっぽいと思ってしまうくらい平凡な人間だ

それでも


「………治癒と浄化、使ってみる」


「ミヤ…瘴気には効かないと説明しただろう

魔力の無駄遣いになるだけだから…」


「…使えない誰が決めた

使える、けど使わない

試してないは駄目思う」


できることが限られているとしても、それでも何もしないままなんて私はしたくない

そう思いながらセリーニさんとしばらく見つめ合った

するとアステリが小さく笑いレモニーさんと顔を見合わせる


「確かに試してないままは良くねぇよな」


「そうですね

もしかしたら浄化も治癒もドラゴンには効くかもしれませんし」


「な、セリーニ?」


二人が微笑みながらセリーニさんを見る

セリーニさんは溜息を吐いた後、小さく困ったように笑った


「確かに浄化も治癒も効かないと言われたのは何百年も前だ

今は試してもいないから分からないな

……ミヤの言う通り、試しても良いかもしれない」


「……! ありがとうございます…っ」


それからアステリの指示でドラゴンの身体の濃く黒くなっている部分に重点的に魔法をかけることにした

最初にアステリとレモニーさんに浄化をかけてもらい治癒は私の役目になる

セリーニさんは魔力を渡すほうに専念すると言った

痛くなったら遠慮なく言ってほしいとドラゴンに伝えると


【無理はせんでくれ…?

すでに我は長く生きておる

主らを犠牲に生き永らえたくはない…】


「大丈夫、無理しない」


心配そうに私たちを見るドラゴンに微笑みアステリの掛け声で魔法を使い始める

だけど効いている気が全くしなかった

レモニーさんが最初に魔力切れになりセリーニさんも続けて限界がきていた

アステリも限界まで使ってくれたみたいだけど駄目みたい

それは私の時も同じで自分の魔力が、ただただ無くなっていく感覚しかなかった


「ミヤ、もうやめなさい

それ以上は君が危ない」


気づくとセリーニさんに止められていた

身体が一気に疲労感に襲われる

目の前のドラゴンの身体を見上げても何も変わっていなかった

セリーニさん達も残念そうな顔をしている


【…もう良い、その気持ちだけで充分じゃ……ありがとうのぅ】


唇を噛み強く目を瞑る

ごめんなさいと謝るしかできない不甲斐無さに俯く

すると一瞬の沈黙の後アステリの驚いた声が聞こえた


「光ってんぞ? なんともねぇのか?」


そう言われて私が光っていることに初めて気づいた

驚くと同時に訳が分からず目を丸くして固まってしまうとドラゴンが


【それは、まさか……ミヤ、その光を我にかけてくれ】


「え、ど、だ、大丈夫?」


【大丈夫じゃ

我の予想が正しければ我の瘴気を消せると思うぞ】


そう聞いて、やらない選択肢はどこかに飛んでいった

すぐにドラゴンの身体の黒い部分に手をあてる

通常の魔法の使い方と同じだと言われ目を瞑り身体の光をドラゴンに送るイメージをする

これ以上、辛くないように

苦しくならないように


ーー消えろ…!


そう強く思った後、身体が光らなくなった

息を切らし、ふらふらしながらドラゴンがどうなったのか目線を上げる


元々の色だっただろう綺麗な緑色に戻っていた


「……まさか、本当に…」


セリーニさんの驚いた声が聞こえる

瘴気による黒い部分が身体から無くなっていて、それを確認して良かったと思ったと同時に目の前が真っ暗になっていった

アステリの呼ぶ声が聞こえるけど意識が沈んでいくのに逆らえなくて私は目を閉じた



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ミヤッ!! おい、しっかりしろ!」


ドラゴンの身体の黒い部分を消し回復させたと思った直後ミヤが真っ青な顔で倒れた


「アステリ、揺らすな!

魔力が枯渇したんだ、ポーションを!」


レモニーが慌てながら腰のポシェットから出したポーションを受け取る

無理矢理だが口を開けポーションを流し込んだ

全員で少しだけ回復した魔力をミヤに送ったりもしたが少し顔色が戻っただけで危険な状態に変わりはなかった

魔力回復用のポーションが足りないし、このままでは死に至る


「…ドラゴン殿、申し訳ないがフォティノース王国に戻らせていただく

詳しい話は後日でよろしいか」


ドラゴンの話す言葉は人間には分からないが俺たち人間が話す言葉はドラゴンに伝わっている

そう分かっていた俺が見上げてそう言うと伝わったようでドラゴンは静かに頷いた

お礼を言いミヤを抱え急ごうとすると突然ドラゴンが俺を咥える


「え?」

「あ?」


驚いている間に俺たち全員を背に乗せるとドラゴンは翼を広げ外に向かって飛んだ

もしかして送ってくれようとしているのかと思っている一瞬で洞窟から出る

馬の番と見張りを頼んでいたアステリの部下が驚いているのが見えた


「セリーニ、レモニー、ミヤを頼んだ!」


事情を説明するためと部下が死なないようにだろう

アステリはそう叫ぶとドラゴンの背から飛び降りていった

魔法で器用に着地するのを見ると視線を前に戻す

すごい速さで国の城壁が見えてきていた

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