表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

瘴気

千年くらい前

当時この世界には邪神と呼ばれるほどに強く好き勝手に暴れている者がいた

多くの人間も動物も精霊までもが命を落とし耐えかねた国王たちが異世界から勇者を呼び出すと邪神を討つよう頼んだ

神の加護もあり特訓を重ねた勇者たちは邪神を無事に倒せた


だが問題は、ここからだった


邪神の汚れきった魔力が霧状になって世界に広がってしまった

疲弊しきっていた勇者たちに始末する力は残っておらず魔物化していった動物に襲われてしまい勇者に頼りきりだった国々の状況は振り出しに戻ってしまった

その後も何度か召喚術を使ったらしいが、瘴気を消滅させることは誰にもできず、またその内の一人が誘拐だと騒ぎ始めたことから王国内は滅茶苦茶になった


「そんな時にドラゴンが名乗り出てくれたんだ

邪神に困ってたのは同じだったから打ち倒してくれた礼として瘴気を一ヶ所に集めてくれた

さすがに消す力はドラゴンにもなかったみたいでな

魔法の応用で瘴気を閉じ込めてくれたんだ

相当な魔力がないとできないから俺たち人間は感謝してる

これが暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)と瘴気の正体」


向かい合わせで座るアステリの説明を聞きながらセリーニさんに借りた絵本を見つめる

黒い煙が動物を包み込んでいく絵が描かれてある

文章を読んでみると “しょうきは、にんげんやどうぶつにはいりこむんだ

よわいどうぶつは、まけちゃって、まっくろになるよ” 間違っていなければ そう書かれていた

魔物は暗闇か瘴気の中を好むらしく私がこの世界で初めて足を踏み入れた暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)に居た大熊が森の外まで追いかけて来なかった理由が分かった

そして真っ黒な身体は瘴気に侵されたせいでアステリによれば瘴気による魔物化の条件は

一定量以上の瘴気を一気に吸い込んでしまった場合と

長期間、少量ずつ瘴気を吸い込み続けてしまった場合

暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)に居る魔物は基本 前者らしい

魔物化するのは人間も例外ではなく魔力があってもなくても瘴気を吸い込んでしまえば魔物化してしまう

それどころか知能がついた魔物になってしまうらしく討伐ランクはSSになる


そして瘴気が見える人と見えない人が居る

フィトーさんと私は前者でセリーニさんとアステリは後者らしい

瘴気が見える人間は、それほど多くない

フォティノース国の中には二割くらいしか居ないらしく見える見えないの度合いも人によって違うらしい

セリーニさんは全く見えず暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)くらい濃ければアステリは薄ら見えるらしい

そんなことを話しているとセリーニさんが戻ってきた

図書館を一日 貸し切りするために動いていたんだとか


「ミヤの見ていたものを確かめたいから来てもらった」


そう言ったセリーニさんの後ろにレモニーさんというローブを羽織った女性が立っていた

魔法研究科に属していて瘴気が見える人らしい

初めましての私たちが会釈すると、そのままフィトーさんを合わせて五人で図書館に行く

セリーニさんが確認するように私たちに促した

フィトーさんとレモニーさんと図書館内を確認すると二階に続く階段に黒い煙が見えた

私が指差した場所を見るけど二人とも分からないみたいで首を傾げる

見えていることを証明できないことに焦ると


「ミヤさんが嘘を吐いているとは思ってないから安心してください

もしかしたら私たちより見えるのかもしれないですよ」


レモニーさんが優しく笑って そう言ってくれた

それにフィトーさんも頷いてくれ少し安心する

その後、煙はそれだけなのかセリーニさんに訊かれ二階に全員で上がった

二階に続いているのが見えたから追ってみると奥の黒い扉から漏れ出ている

あの扉は何なのか訊くとアステリが答えた


「禁書区域だ

召喚術みたいな使用禁止にされた魔法のやり方が書かれた本が置いてある

許可とってるか、セリーニ?」


「もちろん、お祖母様に頼んで許可証もいただいた」


「流石、抜かりねぇな

お祖母様、調子どうだった?」


「起き上がるまでは回復できてた」


「そりゃ良かった」


二人のお祖母様って何者なんだろう

禁書区域の許可証を簡単に出せることに疑問を持ったけど扉を開けてくれたことで頭の隅に追いやられた

するとレモニーさんとアステリが浄化魔法を全員にかけてくれた

これから瘴気が濃くなっていく可能性を考えてなんだとか

定期的に浄化をかければ魔物化は防げるらしい

それでも瘴気自体に浄化が効くことはないし魔力が尽きれば浄化に限らず魔法はかけられなくなってしまうから瘴気の濃い場所には極力行かないという選択しかできないんだとか

本当に厄介だなと思うと同時にセリーニさんが中に入ろうと言った

私もレモニーさんに続いて中に入る

黒い煙を目で追っていくと水道の排水口から出ていた

セリーニさんに言うと何か考え込んだ後に街の地図を広げる


「確か教会の近くでも見たって言ってたね、ミヤ」


「はい、えーと…この辺思う」


この国に初めて連れて来られた時に見た黒い煙の位置を指差す

禁書区域よりも教会の方が圧倒的に濃かった気がする

アステリも覗き込むと二人は地図を睨んだ

セリーニさんが新たに取り出した地図をフィトーさんとレモニーさんも確認すると


「地下で繋がってますね」


水を流すための空間、いわゆる水道がこの国の地下にある

各家にある魔石から出た水を流した後この水道を通って異物を取り除き浄化をかけてから川に返しているのだそう

私が居た世界の下水道に近いかもしれない

セリーニさんの持っている地図では東西南北の四方に水道の本筋があって細かく枝分かれしている上に家が建っているのが分かった

そして教会の水道と、この禁書区域が同じ水道で繋がっていて川に繋がっている

教会の近くから漏れ出ている量が多いから禁書区域は少量で済んでいるみたい


「川の水から瘴気が逆流しているのかもしれない

早急に対処する必要がある

アステリ、お祖母様に説明と周辺住民の避難を頼む」


「おう」


「フィトー、ポーションを試作で作っていただろう?

作ってあるだけ持ってきてくれ」


「効くとは思わないが…分かった」


「レモニーとミヤは俺と一緒に教会の方へ行こう

すでに瘴気を吸い込んでしまっている人たちがいるだろうから人数を確認したい」


「はい」

「分かりました」


セリーニさんの指示で私たちはそれぞれ動き出した



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



近隣住民と教会の人たちは懸念していた通り瘴気に晒されていた

ただの痣だと思われていたが身体の一部が黒くなり始めている人たちも居る

最近では瘴気に侵された人が居ないから無理もない

アステリ率いる第一軍隊とルルーディも加わり急いで避難を開始した

流石と言うべきか

的確なアステリの指示と采配で滞ることなく住民は避難していく

順調に終わりそうなタイミングでアステリが走ってきた


「アステリ、お疲れ

迅速な対応が見事だったぞ」


「そりゃもちろん皆、優秀だからな!

…って、それよりフィトーの浄化のポーション効かなかったんだろ?

どうすんだよ?」


そう、フィトーの浄化ポーションは瘴気には全く効かなかった

もちろん治癒魔法も意味がない

しばらく立ち入り禁止にするしかないだろう

俺が溜息を吐きつつ言うと同時にアステリは頭を掻いた

瘴気は基本、壁や地面でもすり抜けていく

フィトーを始め数百年の間に瘴気をどうにかしようと対策を練ってきた人たちが居る

だが確実な物を発見、開発はできず現状維持するしか今はできない状態だ


「………ドラゴンに何かあったのかもしれないな」


俺の研究室に戻りアステリの部隊数人とミヤに確認してもらった報告を聞き、そう結論が出た

川は暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)の近くを通っている

故に森から漏れ出した瘴気が川を逆流していた

その周辺も近寄ったら危険だと肌で感じるほどにミヤは、はっきりと瘴気が見えたそうだ

俺が言った言葉にミヤ以外が眉を寄せる


「数百年、瘴気が漏れ出てるなんて聞いたことないもんな…寿命か?」


「可能性としてはあるがドラゴンは千年以上、生きると聞く

別の問題があると思った方が良いだろう」


確認しに行こうと俺が言えばアステリが、すぐにメンバーを決める

第一軍隊から四人と魔法ができるレモニーと微かな瘴気でも見えるミヤだ

そこに俺とアステリで八人の小隊が出来上がる

それほど強い魔物でなければ討伐は可能な人選だった


「ここから一番近いドラゴンの住処は東の山だが馬で行くとしても三日はかかる

今日は十分休んで明日の朝、出発しよう」


そう言って解散した次の日

アステリ、レモニー、第一軍隊所属のカネリ、クレム、カスタノ、カフェティ、そしてミヤと俺の計八人で出発した

目指すは東の緑のドラゴンが住処としているというフロロース山

レモニーが俺の後ろでミヤがアステリの後ろに乗り第一軍隊の皆は、それぞれ自分の馬で進んだ

アステリの馬のマヴロスを先頭に順調に走っていたが夕方になったタイミングで立ち止まってしまった

マヴロスは警戒心が一際強く立ち止まったら梃子でも動かない

焚き火を絶やさないようにという基本的なことは守らなければいけないが実際マヴロスが立ち止まった場所は安全な場所ばかりだったそうでアステリは信頼して休む場所を決められるらしい

アステリの指示で休む場所を決めテントを張った後カネリ、クレム、カスタノ、カフェティの四人と見張りの順番を決めた

ミヤとレモニーが作ってくれた食事を食べ二人にはテント内で休んでもらい俺たちは交代で見張りをする

だが流石マヴロスが立ち止まった場所は安全な場所だった

特に魔物の気配もないまま夜を明かしていった

そんな生活を続けて早くも四日が経ち無事に目的地のフロロース山の麓に到着する

馬たちはドラゴンには怯えてしまうためカスタノとカフェティと共に近くに待機してもらい俺たちだけで向かった


「…どうだ?」


「………居るな、大きな魔力を感じる」


「はい、じっとしてて動かない感じですね」


レモニーと共に探査魔法で探すと山の下から魔力を感じた

魔力を辿りドラゴンが出入りしているであろう大きな洞窟を見つけた

念の為、アステリに浄化魔法をかけてもらいカネリとクレムに出入り口に待機してもらう

そして四人で洞窟の中に入っていった

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ