一人じゃない
「フェンリルよ
一人が嫌なら我と共に居るか?」
突然の提案に全員が目を丸くする
聞こえていたのかとアステリが眉を寄せた
防音魔法が効いていなかったということかと思っているんだと思う
「聞こえていた、というのは少し違うな
基本的に人間たちが住んでいる建物は土でできておるからの
探査魔法の応用じゃ
床までは防音魔法は張っておらぬじゃろ?」
そう言いながらラハニスは床を足で小突く
つまり窓の外から魔力を伸ばし私たちが立っている床から話を聞いていた
それも誰にも気づかれることなく
流石ドラゴンだな、と脅威と言われていることは伊達じゃないと関心した
「それで? フェンリルよ、どうじゃ?」
そう言ってラハニスは視線をフェンリルに戻した
「我の住処であれば走り回ることはもちろん、魔法の特訓もできる
我が教えてやることもできるし万が一制御が失敗したとしても我であれば止めてやれる
主は一人ではなくなるし人間たちも怯えて暮らさなくて良くなる
双方悪い話ではなかろう?」
「…確かにラハニス殿であればフェンリル殿を止めることなど造作もない
しかしよろしいのですか?」
「構わん、我も一人で退屈しておる
良い暇つぶしになろう」
セリーニさんの言葉に静かに納得しフェンリルを見る
提案したラハニスを見つめ固まっていたけど次第に目が輝いていく
呼応するように尻尾も振り始めれば返事をしていることと同じだった
「決まりじゃな」
その言葉に安堵の息を吐くとフェンリルが私を見ているのに気づいた
見つめるフェンリルの頭を撫でる
【……ワガママ言ってごめんなさい】
「私こそごめんなさい
期待させることを言って……我儘言ってるのは私のほう
…………だから、もし…もし一人になっても独りじゃないように私はずっと、あなたのことを思い出すようにする
寂しいって気持ちは分かるから…約束する」
指切りはできないから口約束
でも嬉しそうなフェンリルを忘れないようにしよう
もし結婚して子どもができたら私の愚行と一緒に語り継ぐようにしよう
…今のところ結婚の予定も相手もいないけど
【あの……一つお願い聞いてくれますか?】
考えていたことを頭の隅に追いやりフェンリルの言葉に耳を傾ける
名前をつけてくれないかというものだった
私で良いのかと言うと私が良いと食い気味に言われる
そこまで言うならとフェンリルを見つめて考える
銀色の毛並み…安直にギン?
シルバー…シルバーグレーとも言うんだっけ…はくぎん…しろがね…
しろがねって格好良いから私は好きだけど…
というか、そもそも男の子? 女の子?
訊くと男の子だと判明した
じゃあ格好良い名前だと思った、しろがねって名前はどうかなと訊く
すると突然フェンリルの身体が光った
すぐに治まり彼は尻尾を床を叩く勢いで振る
何が起きたか分からず身体に異常はないか確認させてもらうとラハニスの笑い声が響いた
見ればセリーニさんもアステリも苦笑いをしている
笑っている理由を訊くとセリーニさんが溜息を吐いた後
「ミヤ…名前をつけて相手が受け入れるってことは主従関係の契約の一つ
……つまりフェンリル殿が君の従魔になった、ということだ」
………………………………
「…えっ⁉︎ 従魔⁉︎」
【はいっ!
これからよろしくです、ご主人様!】
フェンリルもとい、しろがねは嬉しそうに笑い尻尾を振る
それを見て私で良いのか、もっと他の人を見て選んだほうが良かったんじゃないかとか頭の中がぐるぐる回る
「はっはっはっ! やりおるのぅ、フェンリル!」
【これから僕はシロガネって名前です
そう呼んでください、ラハニス様!】
「おぉ、そうじゃったな
やりおるのぅ、シロガネよ!」
楽しそうに笑う二人に水を差すみたいで項垂れるしかなかった
大丈夫かとアステリに遠慮がちに訊かれ小さく返事をする
騙されたみたいで納得できてないし色々言いたいことあるけど過ぎたことだし少なくとも嬉しそうだから良いかなと思いながら顔を上げた
そして同じように苦笑いを浮かべる陛下に
「従魔になったら何かしないといけませんか?」
「いいえ、特別なことは何もないわ
さっき言ったことはあくまで人間の近くで過ごしてもらう場合
ラハニス様と一緒に居るのであれば特に制限をする必要も権利もありません
有事には手を貸してもらうでしょうけど基本的に好きに過ごしてて構いません」
「有事、のぅ
そんなことで呼ばれたくはないが」
「私もそんなことはないよう努めております
ですが人間は浅はかで愚かな生き物だとご存知でしょう
絶対にないとは言い切れません」
「そうじゃな、覚えておこう」
そう言うとラハニスは帰ろうと踵を返す
ついていくしろがねの後ろを私たちもついていった
ドラゴンの姿に戻ったラハニスの背にしろがねは跳び乗る
【頑張って大きく強くなってご主人様を守りますね!】
「無理はしないでね?
またね、しろがね」
【はい! また!】
嬉しそうに笑い飛んでいく二人に手を振って見送った
あっという間に小さくなっていった後
安心したように息を吐いた皇后陛下に向き直りフェンリルが国に留まった場合の考えが足りていなかったことを謝った
ラハニスたちの時も騒ぎになっていたから本来なら来てほしくはないんだろうけど黙認してくれていることも含める
「…そうね、本来であればお願いしたいけど貴女は気に入られているみたいだから難しいでしょう
民たちには説明しておきますが…まぁなるべく人間に変身してもらってちょうだい
そもそもアステリ、今回のこと提案したのは貴方でしょう
フェンリル殿のことを思ってしたのでしょうけど安易に連れてきたこと、恥ずべき行為です」
「…申し訳ありません」
「国を守りたいのであれば、もっとよく考えなさい
セリーニ、貴方も
危険な行為だと思っていなかったのですか」
「…反省致します」
セリーニさんとアステリへの説教に移り頭を下げる二人を見て、まったく…と溜息を吐く陛下を恐る恐る見る
私へのお咎めはそれ以上ないんですかと訊くと
「反省していないのですか?」
「いえ、していますっ」
「であれば、これ以上は不要でしょう
反省する
同じことを繰り返さない
それができる人だと信じていますから
こう見えて人を見る目はあるほうなのよ」
そう言って陛下はウインクしてくれたから私は二度と繰り返さないと決意を固めて頷いた
陛下がセリーニさんとアステリにもそう促すと執事さんが現れる
もうすぐ会議の時間だと伝えに来たらしい
バタバタしてごめんなさいと謝る陛下に私は頭を下げ
「いえ、お時間取っていただきありがとうございました」
「今度はゆっくり話したいからお茶にでも誘うわね」




