皇后
「解雇なさい」
「承知致しました」
セリーニさんとアステリと共に部屋に案内され紅茶を出された頃
皇后陛下が部屋に入ってきながら、そう言った
私が立ち上がると座っててと言いながらマントをメイドさんに手渡す
執事さんらしき人と少し話すと
「しばらく下がっててくれる?
誰も近づけさせないようにしてちょうだい」
自分の分のコーヒーを持ってきてもらい陛下はそう言ってメイドさん達も含めて全員下がらせた
そしてアステリに防音魔法をかけるように言うと部屋には四人と一匹になり一気に静まりかえる
陛下はコーヒーを一口飲むと息を吐き私を見つめた
「改めて…はじめまして
私はイーリオ・F・フェンガローペトゥラ
色々話したいでしょうけど先に良いかしら
貴女が別の…異世界から来たという女性で間違いないわね?」
私は頷きながら肯定する
「まず謝罪をさせてほしいの
貴女が来た直後、私たちは何もしなかった
セリーニから聞いたわ
私が倒れていたとはいえ国王が貴女を放任していることを野放しにしてしまった
本当に申し訳なかったわ、ごめんなさい」
そう言うと皇后陛下は頭を下げる
国の頂点に立つ人が簡単に頭を下げたことに慌てて上げるように言った
悪いと思ったなら謝るのは普通なのだと言われ謝罪を受け入れる
追い出されないのであれば良いと思ったことも言った
変に目立たなくて安心したくらいだったから
「…優しいのね」
そう言いながら陛下は頭を上げた
優しいと言うならセリーニさんとアステリがそうだと思う
素性が分からない人間に親切に色々教えてくれたし世話をしてくれた
二人のお蔭で今生きていられるのだと感謝している
「…そう…二人とも、ありがとうね」
陛下が優しく笑いセリーニさんとアステリに微笑む
若干照れながら二人は頭を下げた
陛下は小さく息を吐くと私に向き直る
「さっきも悪かったわ
貴女のことは二人から聞いていたけれど聞いているうちに疑問が生まれてね
セリーニ達に言われるがまま考えることを放棄して生活しているのかと思ったのよ」
「陛下、きちんと報告していたはずですよ」
「悪かったと反省しているわ
会って話してみれば私にも物怖じしないのだもの
でも孫に悪い虫がついていないか心配くらいはさせてちょうだい」
セリーニさんと会話する陛下は普通の『おばあちゃん』に見えた
懐かしい気持ちになりながらアステリを見ると腕を組んで静かに何かを考えているようだった
陛下から聞こえた単語について疑問が生まれたけど
『俺たちについて何か訊かれたり聞いたりしても…後で俺たちから説明するから』
そう言っていたことを思い出して口を噤んだ
二人を見ていて、なんとなく分かっていたことだから
「では元々あの者たちは解雇するつもりだったんですね」
「えぇ、あの者たちは以前から言動に問題があると報告を受けてたの
証拠や証言を集めるのに時間がかかってしまったけど国民を悪様に言うのを実際に見れたから充分だわ
そうでなくとも今回あの者たちは呼び集めていなかったのよ
どこから話を聞いたのか知らないし何をするつもりだったのかも分からないけど…ふふ…悪いことはしないほうが良いわよねぇ…」
皇后陛下は恐い笑みを浮かべながら言った
謁見の間で感じていた圧を再び感じる
「それで貴女たちからフェンリル殿について報告と要求があるのよね?」
そう思ったけど話が終わったのか皇后陛下は『おばあちゃん』に戻った
フェンリルが返事をするように一声鳴くとアステリから始め私やセリーニさんも時々加わりながらラハニスとグリーゾさんが国に来た理由から順序立てて話した
討伐した魔物がフェンリルの母親だったということを話してもフェンリルは静かに聞いてくれていた
そして全て話し終えフェンリルが私たちの側に居たいと言っていることを伝える
陛下は全て黙って聞いた後、
「その要求を呑むことは可能です
でもいくつか条件を提示させていただくわ
一つ、私たちの誰かの従魔になってもらうこと
一つ、人間を襲わないと魔力契約すること
一つ、この城から出る時は従魔にした人間と一緒に行動すること
これが約束できるのであれば居ても構いません」
その言葉に目を丸くした
フェンリルは分かっていない部分があるのか首を傾げている
あまりにも行動を制限する内容だったから、そこまですることかと口から溢れる
「そこまですることなのよ、ミヤさん
貴女には馴染みがないでしょうけど我々にとってフェンリル殿は脅威なのよ
今は子どもだから太刀打ちできるでしょう
でも魔物になっていたお母様のことを考えると私たちよりも大きくなるのも強くなるのも確実でしょう
この子が人間を襲わないという保証も何もできない今、行動を制限して常に誰かが見ているしかないのよ
私たちが、私が第一に考えないといけないのは民たちが安心して生活できるかどうか
…分かってちょうだい」
真っ直ぐに言われた陛下の言葉に自分を殴りたくなった
子どもだから、話ができるから大丈夫だろう
そう思ったのは私だけで周りの人たちがどう思うのか、どう感じるのか
よく考えれば分かったことだ
元居た世界でも狼が檻から脱走していたら大騒ぎになっていた
命の危険があるなら、いくら大丈夫だと言われても安心できるわけがない
人間もフェンリルも窮屈になるだけ
言われて気づいた事実にスカートを握り締めるとフェンリルが心配そうに見上げているのに気づいた
「……陛下、少しだけフェンリルとお話ししても良いですか?」
「…どうぞ」
私はフェンリルに目線を合わせるように屈んだ
聖女様…と不安そうに鳴くフェンリルに意を決して口を開く
「…ごめんなさい
やっぱり一緒には暮らせない」
【ど、どうしてですか…?
僕ちゃんと我慢します! 約束守ります!】
フェンリルの言葉に私は頭を横に振る
約束を守る守らないじゃない
私たち人間の側に居れば行動を制限される
自由に動き回れなくなる
不満が出てくる
風のように走れるからこそ窮屈な中では身体を壊すかもしれない
脅威が近くに居て周りの人間たちがどんな行動に出るかも分からない
命をかけて守っていた子どもがそんな目に遭うなんて
「ーーそんなこと、あなたのお母さんだって望んでない」
大事に思っていたからこそ元気に笑っていてほしいはずだと思う
【どうしても、ダメですか…?
一人は…独りは嫌だよぉ…】
フェンリルは涙目で私に訴える
ここで折れてしまえば、きっと後悔してしまう
だから納得してもらうしかないと再び口を開こうとするとノックの音がした
見れば窓の外でラハニスが手を振っている
セリーニさんが驚きつつ窓を開けると中に入ってきた
人間に変身したラハニスを見たことがない皇后陛下は眉を寄せる
「怪しい方ではありません、お祖母様
変身魔法でアステリの姿をしているフロロース山に棲んでいる緑のドラゴン、ラハニス殿です」
そう説明されると目を丸くした後、跪いた
不敬な態度で申し訳ないと焦ったように言う陛下に私は目を丸くする
でもラハニスは人間にとって脅威であるドラゴンだから陛下の態度も頷ける
今までの私たちとの会話が異様なんだ
「元々言葉遣いとか気にする質でもないだろ
俺がこんな態度でも文句言わねぇじゃねぇか」
「アステリ!!」
ラハニスにいつも通りの口調で話すアステリに陛下が怒鳴る
気にした風もなくラハニスが確かにのぅと笑うと目を丸くしていた
私も友だちに話す感じで話してることも伝えると開いた口が塞がらなくなっていた
思えばセリーニさんは、ずっと丁寧な言葉遣いをしていた気がする
「気にするな、皇后よ
我は細かいことは気にせん
敬っても友人でも構わん
好きな口調で話して良い」
「そ、そうラハニス様が仰られるのでしたら…」
すると無理矢理だけど納得したように言った陛下から視線を逸らしラハニスはフェンリルを見る
「フェンリルよ
一人が嫌なら我と共に居るか?」




