謁見
グリーゾさんからの依頼と第一軍隊にあった討伐依頼
それは瘴気に侵されたフェンリルの親子だったと分かった
そのことについて連続で遊びに来たラハニスに報告する
「グリーゾは確かにフェンリルには会ったことないじゃろな
我も二度ほど見かけただけじゃから引きこもりは知らんじゃろぅ
…それでそのフェンリルはどうするんじゃ?」
グリーゾさんって引きこもりなんだ
そんなことを考えながら子どものフェンリルについて話す
明日、皇后陛下に謁見の申し込みができたからアステリとセリーニさんと一緒に行くことになっている
最初は私は行かなくても良いと言われたけど状況を説明する人が多いに越したことはない
それに聖属性魔法について聞きたいと陛下は言っていたらしい
だからこの機会にとフェンリルも連れて行くことにした
ちなみにフェンリルは今はセリーニさんの部屋に居る
時々様子を見に行くけど大人しくしているようだった
「そういえばフェンリルって幻獣とか神獣って呼ばれてるらしいけど他にも居るの?」
「あぁ…それならフェニックスが居たと思うのぅ
あとは人魚やユニコーン、ペガサスなんかも居ったか
我も見たことはないがフェニックスはヴィシニの近くに居ると聞いたことがある
会ってみたいのか?」
ヴィシニというのは、ここから南に位置するコーキノ山に住む火属性魔法が得意な赤いドラゴン
瘴気を浄化した後は会っていないけど元気かな
というか幻獣って結構居るんだ
そんなことを考えながらラハニスに気になっただけだから大丈夫と断った
「会いたくなったら遠慮するでないぞ?」
「ふふ、ありがとう」
そして次の日
セリーニさん達と待ち合わせをしている城に入るための門の前に行く
私に気づくと二人は微笑んでくれフェンリルも嬉しそうに尻尾を振っている
すぐに入ろうとセリーニさんが言うと同時に門番の人と視線が合った
気まずそうに逸らした彼らは私が初めてこの世界に迷い込んだ日に門番をしていた人たち
疑うのが仕事の彼らの視線は良いものじゃなかったけど私は特に気にはしていない
だから普通に頭を下げ開けられた門を潜った
「今さらですけど皇后陛下にお会いするのに私この格好で良かったんですか?」
私は胸に手をあて視線を下げながら訊く
本来ならドレスのほうが良いんだろうけどセリーニさんがいつもの格好で良いと言ってくれた
かく言う二人もいつもの格好なんだけど
「そういうの気にされる方じゃないから大丈夫だと思うよ
ミヤが平民だって知ってるしね
それにそれは医務室の制服だろう?
国に貢献してくれてる証明だから恥じることはないよ」
優しく笑って言ってくれて嬉しかった
国の一員だと認めてもらえてる気がしたから
「…あー…ミヤ、一つ頼みがあるんだけど」
すると、ずっと何か考えていたアステリが口を開いた
「俺たちについて何か訊かれたり聞いたりしても…後で俺たちから説明するから…その…」
アステリにしては珍しく口籠っていた
いつもは合わせる視線も彷徨っている
セリーニさんも何も言わず目を逸らしていてフェンリルが心配そうに私たちを見上げている
「………分かった
二人が話してくれるまで待ってる」
私が小さく笑って、そう答えると二人は悲しそうに微笑む
拒絶されると思っているのか
はたまた距離を置かれると思っているのか
前を歩く二人の背を見つめながら思った言葉は口には出さず静かに目を閉じた
そのまま喋ることなく陛下が待つ謁見の間の前に到着する
「フェンリル様、フリサフィ公爵、ルラキ第一軍隊長、ミヤ・ソライ殿、ご到着されました!」
声高らかに告げられ緊張しつつ扉を潜る
天井にはシャンデリア、壁には絵画が飾られていて圧倒されそうになった
なんとか踏み留まりセリーニさんとアステリに続いて歩を進める
すると私を見て最前列に居る偉そうな男性たちがひそひそ何かを話しているのが見えた
門番の人たちよりも悪意に満ちた目に小さく息を吐く
「…んで、お前らが居るんだよ…」
アステリは小さく呟いたと同時に男性たちを睨みつけ黙らせていた
隣でセリーニさんは小さく笑っている
そして皇后陛下の前に着くと二人に倣って頭を下げた
「セリーニ、アステリ、元気そうですね」
「お陰様で、拝顔できたこと嬉しく思います
陛下はその後いかがですか?」
「回復に向かっていますよ
心配をかけましたね
…それで件の、というのは後ろの方々ですか?」
皇后陛下の視線が私たちに移ったため自己紹介をしながらもう一度頭を下げる
フェンリルも鳴いて返事をしていた
先日まで倒れていたと聞いたけど意外にも元気そうな姿に驚く
短い髪にスラックスを履いていて活発な方という感じだ
目を細めて微笑むだけで強者なんだろうと分かってしまうくらいの圧があるけれど
「早速ですがフェンリル殿を迎えたいと、迎えることになった経緯を聞かせてくれますか?
ミヤさん、貴女から」
いきなり私なんだ
聖属性魔法について聞きたいと言っていたらしいから当然の流れなんだろうけど
「…皇后陛下、一つよろしいですか
あちらの方々が同席されることを私は了承しておりません
私が件の説明をしようと思ったのは皇后陛下のみです」
はっきり言うと陛下は目を丸くし男性たちは憤慨し始めた
平民風情が何を言っている、調子に乗るなと
それに対し唸るフェンリルを宥める
そもそも陛下にだって話すつもりはなかった
セリーニさんとアステリに良い方だからと言われたから陛下にだけと了承しただけ
これで平民だと人一人の意見を無下にするなら、この国にはもう何も期待しないだけだ
「…ふ…ふふ……あっはっはっはっ!」
すると陛下は大声で笑い始めた
それに全員が目を丸くし無言で陛下を見つめる
一通り笑うと陛下は私を見て微笑んだ
さっきまでの圧は無くて、まるで母親のような目で
「貴女の言う通りです
セリーニからの書状にもそう書いていました
…ごめんなさいね
少しだけ貴女を試させてもらったの」
試す…?
「話は私の部屋で聞きましょう
セリーニ、アステリ、案内してあげなさい」
二人が返事をした後、促されるまま扉に向かう
陛下も部屋を出ようとすると男性たちが静止をかけた
何故、自分たちは聞いてはいけないのか
何故その娘の言うことを聞くのか
ただの平民であるのに何故
それを聞いた陛下の顔がどんどん真顔になっていった
「先程の一度のみならず我が国の民を愚弄しますか」
その一言で一瞬で部屋の温度が下がった気がした
それが分かったのかフェンリルも小さく震えている
「我々王族、貴族が居るのは何のためですか
生活できないと言う人たちをバカにするため?
優越感に浸るため?
いざという時に囮にするのですか?
我々は国のために働き、国のために犠牲になるのです
一番に犠牲になるべきは我々
それが貴族に生まれた者の責務です」
男性たちは真っ青な顔で震えていて聞こえているのかいないのか分からない
陛下は呆れたように溜息を吐くと、そのまま出ていった
私たちも続けて出ると、ゆっくり扉が閉められる
不気味なくらいの大きい音がした




