スライム
「じゃあ頼むな」
「分かった」
そう言って私は真っ黒な木に触れる
今日は暗がりの森の浄化の日
第一軍隊の小隊とアステリと一緒に比較的安全な昼間に来ている
もちろん作り溜めておいたポーションも持ってきている
ポーションを撒いてもらうのは第一軍隊の人たちとアステリにお願いして、その間に私は隠れつつ聖魔法を使って浄化していく
端から浄化しているからか目に見えての成果は薄く感じる
地道な作業だけど確実にできていると思いながら触れた木と、その周辺を浄化した
「ほら、一応飲んどけ」
木を一本、浄化しただけで襲われる疲労感に小さく息を吐くとアステリがポーションを差し出してくれた
お礼を言いながら受け取り、ゆっくり飲む
魔力の使い方に慣れてきたとはいえ、まだまだかなと呟くと
「真っ黒になってる木一本まるまる浄化してんだから疲れるのは当たり前だろ
俺だって、それぐらい魔力使ったら疲れるぞ」
「そうなんだ、高望みだったかな」
「だと思うぞ
倒れなくなっただけ十分だ」
「あはは、確かに」
アステリに呆れながら怒られてしまって苦笑いを浮かべた
最初に比べれば確実に成長はしている
私の悪い癖だから、やっぱり急がないように気をつけようと改めて思った
すると小隊のみんなが戻ってきてポーションは無事に撒き終えたけど向こうにスライムが居たとアステリに報告していた
飲んでいたポーションに蓋をして鞄にしまって後ろをついていく
この世界のスライムは瘴気を含んだ水から生まれて触れれば皮膚はもちろん骨まで溶かしてしまうSランクの魔物
近づかなければ攻撃してこないけど意外と移動速度が速いらしく、いつの間にか足下に居たりする
だから見かけたら見失わないように見張りをたてた上で土魔法で仕留めないといけない
「今はクレムが見張っている上でカネリが土魔法で仕留めているところです」
そんな会話を聞きながらカネリさん達が居る場所まで歩いた
スライムは土で包まれているらしく丸い泥団子みたいなものが転がっているだけで姿は見えない
さすが魔物相手は慣れてるな、なんて呑気なことを考えていると
「クレム! 後ろ!」
突然カフェティさんが叫びアステリが走りだした
気づけばクレムさんの後ろにスライムが居る
一体だけじゃなかったのだとクレムさんが体勢を立て直す前にスライムは水鉄砲を打った
アステリが走りながら魔法で土を盛り上がらせて壁を作ったけど全部は防ぎきれずクレムさんの頬と腕と脚にかかってしまう
悲痛な声と共に倒れてしまったクレムさんに急いで駆け寄った
「……っ!!」
傷口を見れば腕と脚は骨が見えている
骨が溶けている様子はまだなかったけど皮膚が溶ける音が聞こえる
クレムさんは荒い息と共に顔を真っ青にさせていた
さすがに私もここまでのものは見るのが初めてで気絶しそうになった
でも、そんなことは許されないと頬を叩いて深呼吸をして向き直る
「傷口を水で流します
クレムさん、痛いと思うので噛んでてください」
布をクレムさんの口に差し出して水魔法を使って少しずつ傷口にかけた
「いぎ…っ……ぐ…っ!」
痛みで暴れたいだろうに地面を掻きクレムさんは必死に耐える
頑張ってと声をかけつつ傷口を見つめる
この間にアステリがスライムを土で包んで、みんなに周囲の警戒を頼んでクレムさんの後ろに座り込んだ
クレムさんの身体を支えてあげるように言うとアステリは自分にもたれかからせた
それを見届けてから再び水を傷口にかける
だけど変化がないどころか、むしろ水を含んで活性化しているようにも見えた
クレムさんの痛みを我慢する声だけが響いて、みんなが心配そうにしているのが分かる
スライム自体が水みたいだからかな…
……どうしよう…っ
悪手だったかもしれない…!
スライムによって身体が溶かされた場合の対処法や治療法は、まだ確実なものが無い
真っ黒になって張りついたスライムを取ることができないまま侵食していって身体全体を溶かして死に至る
だから皮膚や服に付着したままのスライムだけでも、どうにかしたかったけどこれ以上は危ないかもしれないと水で流すのを止めてピンセットで剥がしていくことにした
でも取れるのは壊死していく皮膚ばかりで一向にスライムらしきものに辿り着かない
治癒魔法を使ってみてもスライムが取れる様子は無い
焦りながら必死に考える、考える
普通の傷と同じように消毒と治療なんてできない
落ち着け…落ち着いて…っ
何か……何かあるはずっ
…気づいていないことが……ある…はず…
そこで、ふとスライムが真っ黒だったことに気づいた
真っ黒な状態は瘴気に蝕まれた人たちとラハニスの時にも見た
つまりスライムの水は瘴気と同じなのだと
もしかしたら聖属性で治せるんじゃないかと頭に浮かぶ
私から要求していたことなのに破ってしまうと思ったけど今やらないと絶対、後悔する
そうなったら仕方ないと私は意を決してクレムさんに触れた
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………アステリ
スライムって瘴気を含んだ水から生まれるんだよね…?」
「ん、あぁ
それ以外では確認されてないと思うが」
クレムの治療に悩んでいたミヤが突然訊いてきた
何か分かったのかと思うとスライムで溶けていない部分のクレムの身体に触れる
そして覚悟を決めたような顔をした
「…アステリ、ごめんなさい
私から要求しておいたことなのに」
「は?」
「違約金は払うから」
何を言っているのか分からず、そう言ったかと思えばミヤの身体が光りだした
まさかと気づいた時にはクレムに聖属性で治癒魔法をかけていた
辺りを見張らせていたカフェティたちも目を丸くして振り返っている
「お、おいミヤ!!」
「大丈夫…、絶対治す!」
そういうことを言いたい訳じゃない
だけどミヤは真剣な顔でクレムに聖属性魔法をかけ続ける
今のクレムを治せるのはミヤだけだと直感し見守るしかできなかった
カフェティたちも分かっているのか気にはなっているらしいが騒いだりはしない
治っていく腕を見つめているとミヤは鞄からポーションを取り出し飲んだ
もう魔力が限界だろうが彼女は止まらない
止められなかった
そのまま数分経っただろうか
溶けていた部分は完全に塞がりクレムの身体に付着していたスライムは消えていた
「…はぁ…っ、クレムさん、動かせますか?」
息切れをするミヤがそう訊くとクレムは恐る恐る腕を動かしてみる
普通に動かせていると目を丸くしながら答えるとミヤは安心したように微笑んだ
と思ったら、そのまま後ろに倒れ込む
腕を伸ばそうとするとカスタノが彼女の肩を掴んで支えた
気づけば全員が周りに立っていてカフェティが周囲にはもうスライムの他にも魔物の姿はないと言いながら魔力回復ポーションを取り出しカスタノに渡した
カスタノがゆっくりポーションを飲ませながらカフェティが彼女の手を握り魔力を送る様子を静かに見守っていた
「……もう大丈夫そうですね」
カフェティがそう言うと全員が安堵の息を吐く
静かに寝息をたてているミヤを見て目を細めた後クレムが動けるか確認してから移動した




