予算とからあげ
私が異世界から来たこと
聖属性魔法が使えること
その二つを黙っていてもらう書面契約を交わしてから早くも数ヶ月が経った
瘴気を消滅させることができるポーションができたとフィトーさんが発表した後、懸念していた通り彼のところに作り方を教えてほしいと尋ねてくる人が来ていた
貴重な材料で作っていると言えば大抵の人は材料が底をついても嫌だからと分かってくれて諦めるんだけど権力を振りかざして聞き出そうとしている人も中には居る
でもフィトーさんに何か耳打ちされると顔色を変えて逃げ出したり媚びへつらっていたかと思えば、そそくさと帰っていったりした
「何か急用でも思い出したんじゃないかな?」
訊いてもそんな風に返されてしまうから、それ以上の追求は止めた
そんなことを思い出しながら一日のルーティンになりつつあるポーション作りをフィトーさんの調合室でする
また魔力が枯渇して、みんなに心配をかけないように作る数は話し合って決めていた
もちろん、その日の体調も考えて調節はしているけどノルマの本数が作れて私は背伸びをする
するとタイミング良くフィトーさんが入ってきたから終わったことを伝えると
「それなら丁度良かった
この書類、セリーニに届けてくれるかな
こっちは第一軍隊に頼む」
そう言って書類とポーションの入った箱を渡された
同時には行けないから二回に分けて行くことにしてセリーニさんに書類のついでに借りていた残りのお金を返そうと早足で向かった
「これで全部だね、お疲れ様
それと第一軍隊に行くなら、これもお願いできるかな
アステリに直接渡してほしい」
無事に全額返金できて笑い合った後、渡された書類とポーション箱を持って第一軍隊が居る部屋をノックした
どうぞと言われてドアを開けるとカフェティさんが出迎えてくれた
注文していたらしいポーションの本数を数え一致していたら書類に受け取りのサインをする
宅配便みたいなやり取りだなと思いながら姿が見えないアステリの所在を訊いた
「軍隊長なら定例会議に行ってますよ
何か伝えておきましょうか?」
「セリーニさんに直接渡すように書類預かってるます…」
「でしたら隣で待っていますか?
長引かなければ、あと少しで戻ってくると思いますから」
「……では、お言葉に甘えて」
ちなみに突然流暢に話すと怪しまれると思ったから、まだアステリ達以外には徐々に慣れてきている感じで喋っている
思いがけず休憩時間になって、さっきポーションを作っていたこともあって眠気が襲ってきた
うっかり寝ないように姿勢を正してソファーに座り息を吐く
紅茶を持ってきてくれたカフェティさんにお礼を言って口に運びながら女神アシーミに会いに行った時のことを思い出す
ポーションを作れたことや、それで瘴気の浄化ができたことを伝えようと待っていてくれたラハニスにお願いしたのだ
『そうですか
では、その方法で暗がりの森を始め瘴気を消してくださるのですね?』
『できる範囲で、ですけど』
『構いません
貴女には貴女の生活がある
無理強いをする権利は私たち神にすら無い
瘴気の量が減るだけでも私たちは、この世界は助かるのです
お礼を言います、ミヤ
引き受けてくれてありがとう』
あの時は微笑まれた眩しさで目が潰れるかと思った
みんな私の要望に文句を言わないでいてくれて、それでいて快適に過ごせるようにしてくれる
周りの人たちに恵まれたなぁと小さく笑いながら紅茶を眺める
そしてアシーミ様が微笑まれた後、別の神様が降りてきた
四神のまとめ役というか中心の神、創造神ディオーネで私が居た世界の神とのやり取りを伝えに来てくれた
結果として私が死亡したという改ざんを家族や関係者にできたらしい
今は悲しんでいるけど前を向けるように見守ってくれると言う
良かったと思いながら涙を拭って
『…お礼を伝えてください
それで充分です、ありがとうございます、と』
『私が責任を持って伝えましょう』
そう言ってくれて安心して胸を撫で下ろすと神二人は帰っていった
家族のことを思い出し目を細めながら紅茶を一口飲む
するとアステリが戻ったのか隣の部屋が騒がしくなった
覗いてみると難しい顔をしてカフェティさん達と話すアステリが立っている
何かあったのか話しかけるのを躊躇っていると私に気づいてくれた
セリーニさんからの書類を渡すと、あぁこれか、とお礼も含めて言って自分の机に乱暴に座る
眉を寄せ溜息を吐き、いつもは見せないイライラしている姿を不思議に思い小声でカフェティさんに訊くと苦笑いしつつ答えてくれた
「定例会議では月予算を決めたりするんですが思うようにならなかったんでしょうね
いつも第一軍隊なら余裕だろうと低予算にされてしまうんです
あとは、まぁ…第三のせいでしょう」
フォティノース王国には軍隊が三つある
国の壁外の魔物や敵兵の調査と討伐を主としている第一軍隊
完全な実力主義で貴族であれ平民であれ実力が伴えば入れるし働きに応じて役職が与えられる
ちなみにカフェティさんは平民だけど実力を認められて副軍隊長になってるらしい
そして壁内の治安維持と外交を主としている第二軍隊
貴族と平民で構成されていて親しみやすさと素行重視
軍に来たがる貴族というのは基本的に三男から下で家の事業に携わらなくて良かったり逆に家のために働きに出てきている人らしい
後者であれば家もとい自分のためだから真剣に働いてくれる
だけど前者だと真面目じゃなくても良いから横柄に振る舞い性格に難ありで仕事に支障をきたすために面倒を見れないと第三に異動されてしまうんだとか
「なので…第三は、ただただプライドの高いグループになってしまっているんです」
カフェティさんは重い長い溜息を吐いた
第三は目立った功績を上げることも通常業務をすることもしない
ただの暇を持て余した子どもの溜まり場になっているのに貴族だから下手に恨まれても嫌だと上層部が軍三つに割り当てられている予算の半分を第三に出しているらしい
つまり第一と第二には四分の一しか残らない
武器や遠征する時の費用を考えると明らかに足りない
「討伐をしているので危険を伴う我々にとっては武器の劣化は命取りです
第二も正装でいなければならない場面もあるんです
全員分のことを考えると、かなり現状はキツいんですよ
なので定例会議の度に軍隊長は訴えているんですが上層部は面子を保つことばかり気にして…いつもイライラしながら帰ってくるんです」
どこにでもある話なんだなぁと考えていると慣れているらしいカフェティさん達はそれぞれの仕事に戻っていった
みんなに怒鳴り散らすことなどなく、しばらくしたら落ち着くらしい
苦労していると分かったと同時に溜息を吐いて天を仰ぎながら考えるアステリ達がなんだか不憫で何かできないか考えてしまう
…そういえば…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先月は見送ってしまった分に今月の予算を当てたい
なるべく個々で手入れして長持ちはさせているが、そろそろ限界だ
買い替えたほうが安いと言われる時もあるが長年使って自分の手に馴染んだ物を使ったほうが良い
そう考えるとアレもコレもと、どんどん鍛治屋に頼みたい物が出てくる
「あ゛〜〜〜っ!!」
部下の要望と費用の計算を書き出しては消し、書き出しては消す
ただでさえイライラしている頭を掻きながら軍隊長は叫んだ
全部叶えることは今月もできない
歯ぎしりしながら、そう考えているだろう彼の前にコーヒーを置いた
お礼を言いながらカップを取る彼が計算していた紙を見る
「今月も難しそうですね」
「あぁ…ったく本当に大臣たちは…っ」
大きく舌打ちをし顔を顰める軍隊長に苦笑いした
するとノックの音が聞こえカスタノがどうぞと言うと、またミヤさんが来た
何か届け忘れがあったかと訊くと頭を横に振り休憩しないかと言ってくれた
すると軍隊長の腹が大きく鳴り全員で吹き出した
「ってか良い匂いすんな
なんかどっかで嗅いだことある気が…」
ひとしきり笑った後ミヤさんが食堂から借りてきたらしいワゴンを部屋の中に入れた
許可を得て食堂で作ってきてくれたんだとか
そういえばと、さっき帰り際に腹が減ってないか訊かれたことを思い出した
確かに軍隊長は昼がまだだと答えたし俺たちも小腹が空いたと答えた気がする
わざわざ用意してくれたことに嬉しくなりながら良い匂いが漂い軍隊長を筆頭に何人かが、そわそわし始める
ミヤさんがワゴンにかけていた布を取ると山盛りになった料理が出てきた
軍隊長が嬉しそうな声を出すが我々は見たことのない料理に首を傾げる
「私の国の料理、からあげ
アステリが気に入ってたから作りました」
聞いたことのない料理名だったが食欲を掻き立てる匂いに全員の目が釘付けになる
ミヤさんから皿が配られ、どうぞと言われれば速かった
美味い、なんだコレと頬張りながら言っていくみんなを眺めつつカラアゲを齧った
瞬間、美味いと言う他に語彙が見つからなくて目を見開いた
外はカリカリ、中はふんわりとは違う
本当に肉なのか疑うほどに肉汁が溢れてくる食べ物に初めて出会った
「軍隊長こんな美味いもの食ってたんすか!
ズルいっすよ!」
「ズルいってなんだよ
俺だって二回目だから大差ねぇだろ」
「食べてたことがズルいんです」
「なんだその暴論…」
そんな会話をしつつも全員からあげを食べる手を止めない
俺も二個目の美味しさを噛みしめているとミヤさんは野菜を配り始めた
食べ盛りの男たちは基本的に野菜が好きじゃなく現に何人かが笑顔で固まり受け取ろうとしない
身体を長く動かすためには野菜も食べないとと言われても頭を横に振っていた
すると何か思ったのかミヤさんは軍隊長に野菜を差し出した
軍隊長が渋ることも無く普通に食べ始めると、その事実にみんなが驚く
「……ミヤが作ってくれる野菜は美味いから食えんだよ」
そう言われたけど信じられない面々にミヤさんは有無を言わさない恐怖さえも感じる笑顔をする
それが恐ろしかったのか全員が受け取り野菜を食べた
すぐに美味いという絶賛の嵐になり苦笑いする
これもかけてあるソースが美味いからだと、すぐに分かり驚いた
「ミヤさん、これ作るの大変だったでしょう?」
「食堂の人に作り方教える言ったら喜んで手伝ってくれました」
「それでもこの量は…」
「私たちが安心して生活できてるのカフェティさん達のお蔭
だから当然のお礼と対価だと受け取ってください」
そう言われてストンと何かが自分の中に落ちた
あたり前にと捉えられている自分たちの働きを見てくれている
目を逸らさないで真っ直ぐお礼を言ってくれる
こんな人だから軍隊長が隣で笑顔でいられるんだと
俺たちが自然に笑っていられるんだと分かった
笑い合うみんなを見ながら俺はカラアゲを齧った




