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見知らぬ場所




「…………え?」






………どこ……ここ……?




瞬きくらいの一瞬だったと思う

仕事場からの帰り道

いつもと変わらない交差点

横断歩道を渡ってたはずなのに


気づけば見覚えのない森の中に居た

辺りを見渡しても誰もいない

というか黒い霧があって、よく見えない

肌に這う気味が悪い感覚に直感的な警報が頭で鳴った


…早く出たほうが良い気がする…っ


どっちに行けば良いのかも分からないまま歩を進めようとした瞬間

男性の叫び声が聞こえた

霧の中、目を凝らすと男性が真っ青な顔で走っている


あの人どこかで…


見覚えがある気がする男性

ひとまず声をかけて、ここがどこか訊きたい

そう思って声を出そうした瞬間

男性が突然、消えた

ーー否


巨大な蛇に噛まれていた


男性は少し身動きを取ったけど、すぐにぐったりとして動かなくなった

多分毒蛇なのだと冷静に見てしまう自分が居た

地面に下ろされた男性は、か細い声を出しながら逃げようと手足を動かそうとしている

だけど大蛇は口を開け容赦なく男性を飲み込み始める


それを私は呆然と見ていた


まるで映画のワンシーンで

でも紛れもなく現実に起こっていることなのだと

大蛇に噛まれた男性の血の匂いが教えてくる

息が上手く吸えなくて浅い呼吸を繰り返した

逃げろと頭の中の警報が鳴り響くのに足が動いてくれない


今しかないんだ

今しか離れるチャンスが…っ


必死に自分に言い聞かせて静かに、その場から逃げた

幸いなことに大蛇は気づいていなかった

黒い霧のせいで、どこに向かっているのかも分からなかったけど

走っている間に思い出した


あの男性…っ

掲示板で行方不明って貼られてた人だ…!


私が住んでいる市は小さいけど人口は多いほうで

治安が悪い場所があることも有名で

大きな事件なんて起これば場所なんて、すぐに分かるけど

小さな乱闘騒ぎなんて、しょっちゅう起こってて

交番前と市の掲示板は貼り紙だらけだ

だけど何気なく見た中に確かに、あの人がいたのを覚えてる

さっきの大蛇も含めて考えて辿り着いた結論


…ここはーー…私の居た世界じゃない…っ!!


息を切らしながら走って走って走った先

わずかな光が見えたと安心できたのに

その前に居たのは人ではなく熊だった

それもさっき見た大蛇よりも大きくて私を視認すると威嚇してきた

私は身体が竦んで後ろの木に寄りかかる

頭が真っ白になって何もできなかった

暫く私を見ていた大熊は手を振り上げる


…あ…私も死ぬのか…


死に直面すると、こんな感じなのか

振り下ろされる大熊の手が、ゆっくりに感じる

せめて痛みなく死にたかったな

そんなことを呑気に考えられるくらいに


すると、その大熊の腕が斬り落とされた


人の姿はなく肌に感じたのは風だった

かまいたちみたいな強い風が吹いたらしい

すると大熊が痛みで叫んでいる間に誰かに引っ張られた

後ろ姿で顔は見えないけど助けてくれたみたい


「ーーっ!」


喋ってる言葉も分からないまま

引っ張られるまま走り続けると森から出られた

息を整えて前を見ると目に入ったのは

綺麗な青空

草原と川

塀で囲まれた街

その奥に佇む雪山

暗い森しか見てなかったから感動した


……やっぱり…


それと同時に見覚えのない景色に落胆し私は座り込んだ

マンガや小説で、よく見ていた展開

物語の中では楽しめたけど実際に体験するのは訳が違う

さっきみたいな動物がいる世界で生きていけるとは思えない


…そもそも帰れるのかな…

ここに来た経緯も分からないんだけど…


手をついた地面を見つめ考える

でも考えが纏まらなくて、ぐるぐるするだけ

混乱していることだけは分かった


「……っあ゛ーーー!!」


ぐるぐるする頭を吹き飛ばしたくて大声で叫んだ

頬を思いっきり叩いて喝を入れる

強く叩きすぎた気もするけど


私の昔からの悪い癖

こんな混乱していたら考えられるものも考えられない

正常な判断ができない

性急な判断は良くないから

それに今は考える為の情報が足りない

だから落ち着けるまで考えない


「……よしっ」


そう考えると立ち上がって気合いを入れるように拳を握った


「…ーー?」


すると遠慮がちに男性が話しかけてきた

軍服のような姿の彼は私を心配しているみたい

さっき意味不明に突然 叫んだからだと思う

助けてくれた、お礼を言いたいけど言葉が分からない

身振りを合わせて頭を下げると通じたらしく笑ってくれた

すると彼は自分の胸に手をやると


「アステリ」


はっきりと そう言った

首を傾げると彼は同じことを言って私に手を差し出す

それをもう一度繰り返してくれたところで彼の意図が分かった

アニメで見たことあるシーンだった

私は自分の胸に手をやり はっきりと


「美夜」


確認で、もう一度繰り返して彼に伝わった

助けてくれた彼はアステリという名前らしい

単語と身振りで、どうにかなるものだと安心すると

アステリが喋りながら地図を広げて見せてきて

中心の旗を指差すと、さっきから見えている塀で囲まれた街を指差した

そして周りを、ぐるっと指で囲むと

アステリが乗ってきたであろう馬を親指で指差し首を傾げた


多分、送ってくって言ってくれてるんだろうな


意図が分かると申し訳ない気持ちになりつつ

私は地図を彼の手の中で畳むように促した

アステリは困惑して地図と私を交互に見ていたけど

私が頭を横に振りながら手でばつを作ると考え始める


ごめんなさい

この世界の人間じゃないんです


そんなことを考えながらアステリの判断を待った

彼は地図をしまうと

放していた馬を指笛で呼んで乗るように身振りをしてきた

乗馬の経験がないから苦戦しつつ、なんとか乗らせてもらう

馬さん痛かったらごめんと思っていると

彼も乗り何か言ったかと思えば馬を走らせ始めた


「ちょ…っ! 待って待って!

どこに行くのっ⁉︎」


「ーー!」


「ごめん分かんない!」


そのまま彼は馬を走らせ地図の中心でもあった街に着く

私は、すっかり疲弊していて乗馬って結構きついのだと初めて知った

アステリが心配そうな顔をしていたから大丈夫と小さく笑う

すると速度を落として走り始めてくれて

多少の余裕ができた私は街の様子を見てみる


……アステリって有名人なのかな

なんか道行く人が皆じろじろ見てる気が…あ、違うわ

服装からして私が珍しいのか

ジャージみたいな生地がないみたい


自己完結すると教会っぽい建物が建物の間から見えた

この世界にも宗教はあるのだと分かったと同時に

黒い煙も見えて教会の近くで大丈夫なのかなと思いながら通り過ぎ

さらに門をくぐり入ったのは城壁の中だった


ーー何で?


アステリは慣れたように馬を走らせる

もしかして王族なのかと思っても訊ける訳なくて

勝手に降りることもできず大人しく乗っていると

城の中に入るのか馬から降りたアステリが門番と何か話すと

私に馬から降りるように手振りをした

また苦戦しながら馬から降りると

アステリが身振りで門番の前で待つように言っている気がした

私が頷くと城の中に急いで入っていく


いきなり部外者を入れる訳ないもんね…


小さく息を吐くと門番の人たちの、ひそひそする声が聞こえた

じろじろ上から下まで見ながら何か言っている

私を怪しむのが彼らの仕事なんだろうけど気分が良いものじゃない

眉を寄せ門番の人の視線に耐えていると馬の顔が突然 割って入った

目を丸くしていると馬は私を静かに見つめる


「…もしかして心配してくれてるの?」


馬は鼻を鳴らし頭をぶつけてきた

黒くて大きな馬だと思ったけど優しい子なんだ

そう思いながら小さく笑って撫でる

意外と毛が柔らかいと思った


「ありがとう」


アステリに名前、訊いておこう

ちゃんと呼びたいもんね


そう思いながら撫でているとアステリが戻ってきていた

私を見て目を丸くしている

アステリの隣に立っていた人も驚いていた

首を傾げていると咳払いをしてアステリが隣の人と何か話す

その人は私に近づくと いくつか違う言語で話しかけてきた

こんなに何ヶ国語も喋れるのは凄いことだけど

そのどれもが私には分からなくて固まってしまう


「……これなら話せる?」


すると暫く考えた後その人から日本語が出てきた

私は驚いた後、急いで頭を縦に振る

その人は安心したように微笑むと


「じゃあ改めて…はじめまして、私はセリーニ

そこに立っているアステリの兄弟だ」


「はじめまして、美夜と申します」


「ミヤだね、よろしく

この言語は慣れてなくて…ごめんね」


「いえ、話せる方に会えて嬉しいです」


言葉が通じないと何もできないから、ちょっとでも話せるだけで嬉しい

そう思いながら小さく微笑んだ

そのまま城の中ではなく隣の施設に入るように案内される

良いのかと訊くと管理はセリーニさんが任されているらしい

それにアステリは軍隊長で

女性では、まず勝てないから問題ないとセリーニさんは笑った


…そういう問題ではないと思うけど…


ちらっとアステリを見たけど首を傾げられた

確かに大熊から助けてくれたのは彼だから強いんだろう

門番の人たちを軽くあしらっていた

反抗する気はないから、それ以上突っ込むのはやめた


セリーニさんは史学史者で研究室を与えられているらしく案内される

他国の言語も調べているから日本語も話せるのだと

そこそこ有名だから何かあれば頼ってくれと言ってくれた


「ありがとうございます」


「気にしないで………じゃあ本題

ミヤ、何で暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)にいたの?」


セリーニさんと向かい合う形で椅子に座ると

真面目な表情で、そう訊かれた

私は一度、深呼吸をしてから説明を始める



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺の名はアステリ

フォティノース王国で第一軍隊長を任せられている

それもあり、そこそこ強いと自負している


目の前に座っているミヤという女性

いつからなのか暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)の中に居た

魔物で溢れかえっている森に王国に住んでいる者は近づかない

見回りに行っていなければ気づかないまま亡くなっていただろう

何故、森に居たのか訊きたかったが言葉が通じず

家に送っていこうにも俺が持っている地図上には無いときた


多言語を操るセリーニであれば会話ができると思ったが

連れてきて正解だった

かなりの変わり者だが史学においては秀でている

この王国内で知らない人はいないくらいだ

俺には分からない言葉でミヤと会話している


あの森に居たのも不思議だが彼女の服装も不思議なんだよな

この国近辺では見ない服装だし…

生地からして、この辺の物じゃない

……いったい彼女はどこから来たんだ?


腕を組みミヤを観察しながら色々考えていると

一通り話が終わったのかセリーニが俺に向き直った

真剣な顔に眉を寄せる

森から城までの道中でもそうだったが

ミヤが不審な行動をとる様子は見られない

警戒していなかったが危険人物だったのだろうか


「…彼女この世界の人間じゃない」


「………は?」


言われた言葉が、すぐに理解できなかった

セリーニが聞いたところ

ミヤは、いつもと変わらない帰り道を帰っていたが

気づいたら森の中に居たんだそうだ

しかもミヤの世界で行方不明になっていた人が

目の前で蛇の魔物に喰われていくのを見ていたらしい

その後に俺に助けられた


「……嘘だろ?」


俺たちの会話が終わるのを静かに待っているミヤを見る

視線に気づき首を傾げたミヤを見てセリーニは頭を横に振った

スキル《 鑑定 》で見たから間違いないということか

セリーニの《 鑑定 》は人間相手に使うと相手の肩書きを見れる

だから危険人物や詐欺をしようとしている人が分かってしまう


つまりミヤは嘘を吐いていないということだ


…いや……なら納得できるか

喋る言葉が違うのも

着ている服を見たことがないのも

暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)に居た理由も

なにより あの時の何か吹き飛ばす勢いで叫んで



泣かないように頬を叩いた行動の理由もーー



「………いや待て

じゃあ何で、お前ミヤと会話できてんだ?」


別の世界の言葉のはずなのに


「彼女の言語が古語として残ってるんだ

図書館に行けば本も残ってる

いつ話されていたのか俺たちも分かってなかったんだけど…

召喚術の可能性もあるが…もしかしたら今までも突然送られてきた人がいたのかもしれない

……彼女のように」


そう言われ気づいた

今まで異世界から人間が来たなんて情報は一度も聞いたことがない

暗がりの森(ゾフェロスフォレスト)は人間を喰らう魔物の巣窟だ

人間一人では太刀打ちできず成す術なく喰われていくしかないが

魔物たちは森から出ようとしないから森に入らなければ安全だった

理由が分かっていなかったが


異世界の人間たちに俺たちは平穏を守ってもらっていたということか…?


背筋に冷たく嫌なものが伝った

セリーニも同じ考えになっているらしく眉を寄せた

俺は重い溜息を吐くと頭を掻く


「…とりあえず陛下たちに報告してくる

このまま黙ってる訳にもいかないからな」


そう言うとセリーニも同意見だった

俺は再びミヤと視線を合わせる

不安そうな表情をして俺を見上げる彼女の頭を撫でた


「そんな顔するな

悪いようには絶対しないから」


「…不用意に女性に触れるのは失礼だぞ、アステリ」


「これぐらい許せよ」


言葉が伝わっておらず、きょとんとしているミヤ

セリーニに説明を頼み俺は部屋を出た



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「国王陛下に君のことを報告に行ったんだ

この国に住むなら…えーと…しつよう、だからね」


突然、頭を撫でられ訳が分からずにいるミヤに説明した

発音が難しいから大丈夫かと思ったが

ミヤは頷いてくれ伝わっているみたいで安心する

別の世界から来たなんて陛下たちが信じてくれるか分からないが


するとアステリ達は信じてくれるんだとミヤが訊いてきた

俺は《 鑑定 》というスキル持ちなのだと説明する

使える人によって見える情報は違う

俺の場合は人間相手に使うと肩書きが見える

彼女の肩書きは『異世界人』と、はっきり出ていた

ミヤの知っているスキルとは少し違うみたいだが理解してくれた


「勝手に見て ごめんね」


俺が謝るとミヤは頭を横に振り


「突然、別の世界なんて言われて信じることはできないと思います

必要なことだったんでしょうから構いません

むしろ嘘を吐いていないと証明してくださって、ありがとうございます」


そう言いながら頭を下げてくれた

その彼女の態度に目を丸くした

肩書きであれ勝手に見るのは相手を不快にさせる

怒られたり罵られたりすることはあっても感謝されたことはない

ミヤは冷静に客観的に自分の立ち位置を見て感謝してくれたのだ

それが新鮮で嬉しくて小さく笑ってしまった

首を傾げるミヤに何でもないと言ってから


「それで、これから君はどうしたい?

もちろん元の世界に帰れる方法は探してみる

だけど今すぐというのは難しいし方法が必ず見つかる保証もない」


少し泣きそうになった彼女は俯き少し考える

そして出てきた言葉


「今のところ思い浮かんでいるのは…この世界の言語を教えてもらいたいこと

住む場所と一ヵ月くらい生活できる分の、お金を貸していただきたいです

それから働き手を募集しているところを紹介してもらえますか」


目を丸くした

言葉が少し難しかったが働きたいと言った

この子は本当に冷静に見ている

見えてしまっているのだ


自分は元の世界に帰れない確率が高いのだとーー


「言語は図書館に行けば本がある

子ども向けのがあるから分かりやすく勉強できると思うよ

住む場所とお金は私が出そう

…それと働きたいってことで良いんだよね?」


確認するとミヤは頷く


「一つは私のところ

私から言語も教えられるし、わりと自由にしていられる

もう一つは医務室

常に人が足りない状態なんだ

軍の人が出入りしているから安全ではあるしアステリも世話になってる」


二つの場所を紹介するとミヤは少し考え

医務室で働かせてもらえないかと言った

なら責任者に会いに行ったほうが話が早い

ミヤと医務室を訪れると


「あれ、珍しいなセリーニ、何か用か?」


さっそく責任者のフィトーが出迎えてくれた

軽く挨拶をすると本題のミヤを紹介する

自分の名前が呼ばれたことは分かったらしい彼女は頭を下げた

ここで働かせてもらえないか訊くとミヤを見て


「それは、ありがたい話だが…」


珍しい髪色も相まってるからか疑問に思っているらしい

ミヤのように真っ黒な髪色は、この世界では珍しいからだ

別の世界から来た子で、こちらの言語を話すことはできない

そう説明するとフィトーは驚いた

その声に奥の部屋から助手のルルーディが顔を出す

首を傾げ俺たちを見ていた

疑っていたが俺の《 鑑定 》のお墨付きだと言うと納得する

うーん、とフィトーは唸りながら考える

やはり言語の壁が最難関か

するとミヤが彼の考えていることが分かったのか


「あ、あの…こちらの言葉を頑張って覚えるつもりです

最初は単語だけになってしまうかもしれませんが頑張って覚えていくので…

お願いします、こちらで働かせてください」


そう言いながら頭を下げた

俺は首を傾げるフィトーに通訳する

それを聞いた彼は困った顔をした後

ふっと笑って頭を上げるようにミヤに言った


「覚えること、たくさんありますよ?

それでも良いなら、これからよろしくお願いしますね」


俺の通訳を聞いたミヤは嬉しそうに頷き

フィトーとルルーディと挨拶を交わし始めた

一件落着で俺が通訳しつつ案内をする

彼女はメモをとるのか肩に掛けていた鞄から紙を取り出した

ここでは見たことのない形の筆と

羊皮紙ではない紙を持っていることにも俺たちは驚いた

ミヤの世界では、あたり前にある物らしい

この世界との違いに驚きつつ説明を続ける


「ここに居たのか」


案内と説明が終わったところでアステリが現れた

陛下への報告が終わったらしく戻ったところ

俺の研究室に居なかったから探しに来たんだとか

ミヤを医務室に連れてきた理由を話すと驚いていた

仲睦まじくしている三人から少し離れ小声で話す

陛下の判断は どうだったのか訊くとアステリは頭を掻き


「俺らに任せるってよ

要は厄介者の世話はしないってことだろ」


なんとなく予想はしていた

この世界に召喚術というのはあるにはある

魔物の脅威に怯えていた千年くらい前まで召喚していたと聞く

始めから言葉が通じていたからミヤと同じ異世界から来たかは分からないが

だが帰す手段がないことで召喚された人と揉め

世話を義務付けられ我儘し放題されたらしい

それに辟易すると召喚術は禁術にし何百年も使っていない


ミヤは呼び出した訳ではないから世話する義務もないということだろう


「確かに、そう言ってしまえば楽なんだろうけど…

これからミヤはどうなるんだよ

召喚してません知りません終了ってなれないだろ」


アステリの意見に同意した

彼女も俺たちと同じで感情があるし人生がある

知らぬ存ぜぬで終わりにするのは、あまりに酷い

その点はアステリも陛下に進言したらしいが流されたんだとか

もう関わる気は無いのだろう


「そういやミヤの要求、他にもあるんだよな?」


「あぁ、勉強と家と一ヵ月分の金銭

生活する上で必要なことばかりだ

しかも借りると言っていたから返すつもりだろう」


「……現実的だな」


若いのに、しっかりしていると二人で頷いた



    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「家は、ここを使ってくれ」


医務室での自己紹介と

セリーニさんの通訳ありで業務の内容を簡単に教わり

図書館に寄って、この世界の言語を簡単に学べる本を借りると

案内してくれたのは街の外れにある二階建ての一軒家だった

中に入ると立派な外見とは裏腹に埃まみれ


「親から受け継いだんだけど使ってなくてね

掃除もする暇もなくて」


「住むなら掃除しておいてってことですね?」


「うん、よろしく頼むよ」


セリーニさんは微笑みながら、そう言った

住む場所がない私は与えられたら住む他ない

掃除しないと生活ができない

人が住んでいれば家が傷んでいくこともない

合理的に考えたなと感心したと同時に

アステリは使ってないのか疑問に思って訊いた


「アステリとは母親が違うんだ

だから彼は彼で受け継いだ家があるんだよ」


扉に背中を預けて立っているアステリと

その斜め前に立っているセリーニさんを見つめ

異母兄弟だった事実に驚きつつ納得した

アステリの家が二軒隣だったのにも驚いたけど


その後、三人で市場に行き

安く売っているお店などを教えてもらい

ご飯を食べに行ってから家の掃除に取りかかる

雑草だらけだけど庭もついていたことに驚いた

とりあえず一階の床とベッドと浴槽だけ終わらせ

セリーニさんから借りた生活費を計算することにした


ありがたいことに家賃はいらないって言ってくれたから…

食糧と食器と調味料と食器洗剤

衣類と洗濯洗剤

トイレットペーパー…

…シャンプーってあるのかな…

とりあえず急ぎの物は、これとこれと…


庭で畑も作りたいが、まずは生活の基盤を整える

そう考え優先的に買う物をリストアップして計算する

あるか分からない物は保留にした

この世界は魔石を使って洗濯機もトイレも作られている

コンロなんかもあって生活していくのに不便は感じない

ただ一ヵ月に一回、魔力の補充はしなきゃいけないらしい


この点はアステリが全属性使えるらしいから頼んじゃったな…


長い間この家は使ってないから魔石の魔力は無くなっていた

本当は専門の魔導師がいるらしいが

今回だけとアステリが魔石に魔力を入れてくれたのだ

心の中でアステリに感謝しつつ

こんなものかと計算した紙を眺める

医務室の給料がどれぐらいなのか分からないけど

なるべく無駄遣いしたくない


言語も魔法も覚えないといけないし…

はぁ…頭パンクする…


天を仰ぎ溜息を吐く


魔石があるなら魔法もある

火・水・木・土・光・闇の六種類

貴族でも平民でも使うことができ魔法を使って生活している

医務室も基本的にポーションか光属性の治癒魔法で治療するらしい

稀に魔力が無い人が居るが そういう人の為に魔石がある

魔力も無限ではないから魔石は重宝されているみたいだけど

働くなら治癒魔法は使えないと無意味だ


頭の中が、ぐるぐる回って

何から取りかかれば良いのか分からなくなる

私は深く息を吸うと頬を思いきり叩いた


落ち着いて

確実に一個ずつ終わらせる

それが最善で最短

焦るな


そう考えながら長く息を吐いた


「………よしっ」


また、ぐるぐるする前に寝てしまおう

そう考えて入浴を済ませて、さっさと横になった

目を閉じると、それまでの疲れが一気に出たのか

すぐに意識が落ちていった
















……目が覚めたら元に戻ってるとか…ない、かな…

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