夜のバザール
二十の刻。
月も星もなくとも、夜市を歓迎する大精霊の声を届けるように、空は宝石のような光沢を帯びていた。
バザールの門の前には人だかり。
──ひらけゴマ
大精霊の合い言葉で開門した。
「ようこそ、夜のバザールへ!」
セマとヴァルトルは魔術師として仕事をする際のローブを纏っていた。
服装に規定はないが、自分が何者なのか主張しておいた方が、夜限定の店では買い物がしやすいと、ラーファに勧められた。
実際、その通りだった。
「こっ、これはっ、いい感じの穢れが溜まった糸!きゃあっ、使用済みの釘まで!」
興奮するセマ。
「……っ、魔術師の幻覚(笑)といわれた職人集団『ゼロ』の笛……は、本物? …… ほんものじゃん! うわ本物!」
買っちゃいますか?と、小精霊がヴァルトルをそそのかす。
「兄さん、姉さん、お目が高いね、しかもなかなかの手練れとみた!この職人の笛とか、この糸はどうだね?」
店の主人も、どんどん商品を紹介していった。
「はぁ~、これこれ、これですわぁ、ハジメテの反応、最高ですぅ」
ラーファは、買い物に夢中な魔術師の子らをうっとり、じっくり眺めている。
「……ラーファ、そのだらしない顔、あの子たちの前ではしないように」
エフェはバンダナを外している。あらわになった尖った耳、丁寧に梳かれた銀の髪。青みを帯びた精霊院の法衣、裏地に星月夜が描かれたマントを羽織る。
「だらしないとは失礼な、お二人の初のお買い物を微笑ましく見守っているだけですわ」
「微笑ましく?」
「真顔で返さないでくださいませ、あっ、いけませんセマ様、そちらはぼったくり屋でございます!」
ラーファはぼったくり屋へ突撃し、ぎったんぎったんにした。
「いたいけな少女をカモにするのは許しません!」
「あーあ」「今日は特に容赦なかったですな」「そりゃあのう、あんな子どもを狙ったら、のう」「自業自得」夜は基本的に無法者だらけだ。道先案内人による鉄槌も日常茶飯事である。
「ラーファさん、迷惑かけてごめんなさい」
「セマさんはちっとも悪くありません、騙す方が悪いのです」
セマはまだ店を見て回るつもりだ。
「さっきのような店はまだまだあります、わたくしも着いていってよろしいでしょうか?」
「ラーファさんと一緒なら心強いです」
「セマ、お前、呪物しか持ってねえんだから、うっかり余所様を呪うなよ」
「厳重に封してるから大丈夫よ」
エフェとヴァルトルは二人を見送った。