期間限定チョコレート味
お守りも完成し、いざバザールへと勇んでいると、小精霊たちが文字通り飛んできた。ふわふわな外見からは予想のつかない、見事なスピードである。
「どうした?……────なんだと……」
しばらく小精霊と話をしていたヴァルトルは、真剣な表情に変わった。
「セマ」
「ど、どうしたの?ヴァル」
「……今日からチョコレート味が期間限定で売られている」
「緊急事態ね」
甘いものがすきなおとこのこに教えてあげなくちゃ! と、小精霊たちは一目散にやってきたのだ。
「んひゃひゃ、楽しみね」
「ああ」
口元がほころんだヴァルトルに、セマは胸弾む。
甘味に浮かれる幼馴染は、とってもかわいい。
「二人とも、いらっしゃい」
店には先客がいた。チョコミント色の服を着た、バザールで知らぬ者はいない娘。
「道先案内人さん」
「この間はありがとうございました」
セマとヴァルトルはぺこりと頭を下げた。
「ラーファとお呼びください、セマ様、ヴァルトル様」
「あ、あの、様付けはちょっと……」
「呼びすてでおねがいします……」
子どもたちは気恥ずかしげに云った。
「では、セマさん、ヴァルトルさん、お役に立てたのならなによりです、バザールを安心、安全に運営するのがわたくしの役目、お困り事がありましたら、すぐにお呼びくださいな」
ラーファの虹色の瞳がきらめく。
「わたくしは大精霊、この場の秩序を護る者」
大精霊は、万象を司る精霊の中でもひときわ強力な力を持つ精霊だ。
ラーファは食べかけのたい焼きを持っていて、ちょっときまり悪そうに笑った。
「すみません、休憩中ですの、ほら、帽子を外していますでしょう、これが休憩の目印ですわ」
「ラーファは新作出すと、すぐ買いに来るんだ」
「エフェさんはわかっておりませんわね」
ラーファはくるりと市場を見渡す。
「ここを誰よりも愛し、誰よりも知り尽くし、誰をも安心、安全にご案内する、それがわたくし信条、新作を試さずどうしてお客様にご説明できるでしょうか」
「それで、感想は?」
「とっても美味でしたわ、ごちそうさまでした!ああ、わたくしったら長話を、セマさん、ヴァルトルさん、申し訳ありません」
どうぞ、と、ラーファは店の端に寄った。
「あの、エフェさん、注文の前に、お渡ししたいものがあるのです」
「いつもありがとうございます」
渡されたお守りに、エフェは感激した。
「ありがとう、家宝にして大事に仕舞っておくよ」
「いえ、どうか身につけておいてくださいな」
「わかった、肌身離さず持っておくよ」
キリッとした表情でエフェは告げた。
「お礼に、二人とも今日はタダにするよ」
「いえ!ちゃんと払います!」
学生二人は渋る店主に代金をがんばって押しつけた。
甘めの生地に合わせてちょっとほろ苦く、とろりとしたくちどけのチョコレート。小精霊、おしえてくれてありがとう!
ヴァルトルは、チョコがついたセマの口元を指で拭った。
「そうですわ、お二人とも、新月の日はどうなされるのでしょう?もし行くつもりならば、ご案内させてください」
ラーファの問いに、幼い魔術師の反応は薄かった。
「あら?も、もしやご存じで、ない……エフェさん!」
「だって二人とも越してきたばかりだし、学校もあるし、まずは街に慣れないと」
「ああっ、そうですわね、いけませんわ、わたくしとしたことが焦ってしまいました」
しょげてしまった大精霊に、セマが慌てて口をひらいた。
「あ、あの、夜のバザールのことですよね?」
「はい、そのことですわ」
入手が難しい素材や稀少本などが売られているという、魔術師おすすめ市場、毎年ぶっちぎり第一位。セマとヴァルトルの憧れの夜市。
「行ってみたいです」
「どうか案内してくれませんか?」
ラーファは満面の笑みを浮かべた。
「もちろんですわ! ああッ、腕が鳴ります、手取り足取りお教えしましょう」