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そのバザールにおけるいくつかの噂話  作者: 川坂千潮
ユースグリットのバザールに売っていないものはない
3/23

糸紡ぎの魔術師

 それから、セマとヴァルトルはちょくちょくたい焼き屋に通うようになった。

 たい焼きは東方の国の菓子だ。

 さかなの型に流し込んで焼いた生地に具をはさみ、手づかみで食べる。


「定番は餡子だよ」


 アンコとは豆を砂糖で煮詰めたものだ。ふわふわな食感で、しっとりとした甘さ。セマもヴァルトルも毎回注文するようになった。

 二人が獣医を目指し専門学校を受験、合格してユースグリットへやってきたと話すと、「入学祝いだよ」と、ひとつ、好きな味をおまけしてくれた。


 エフェは街ついても教えてくれた。


「安くて新鮮な野菜屋さんや、素敵な老夫婦が営む本屋さん、危ない裏通りも覚えたわ、エフェさんにはとっても感謝してるの、ありがたいわ、でも頂いてばかりは落ち着かないわ」


 セマは嘆いた。

 学校の昼食時、食堂。

 セマとヴァルトルは一緒に食事をしながら、エフェへどうお礼をしようか相談していた。


「本来は俺らがもてなすべきだしな……」

「お茶会にお招きしても、エフェさん、苦手なお茶やお菓子を出しちゃっても喜びそうで困るぅ……」

「絶対笑顔で食べるだろうな……」


 うんうん悩み、結局、お守りを作ることにした。

 針は幼い頃から頼りにしている相棒を。糸も、実家から持ってきたもので足りそうだ。

 清めた針で、糸を器用に編み込んでゆく。

 正確な順序で編むことで、魔術を発動させる魔術式が紡がれる。

 順序と編み方さえ間違えなければ、どんな糸の種類を使っても、途中で変えても問題ない。

 そもそも、本来、セマの一族の魔術は、魔術式さえ正確に紡げれば、描かれるかたちはどのようになっても発動するのだ。

 だが、イーネ家は完成のかたちにこだわった。

 うつくしく、きれいでかわいく、かっこよく、へんてこで、おもしろおかしく。


 ──どうせなら、持っていたくなるようなものを

 ──その方が素敵でしょう


 魔術式を研究し、改良を重ねた。

 こうして、縫い針だけでなくかぎ針やタティングシャトルなどあらゆる道具を用いるようになり、術式も、動物や幾何学模様など、あらゆるかたちに仕上げられた。


「ねえヴァル、どうかしら」


 月の大精霊を信仰するユースグリットにあやかり、三日月型の飾り。

 持ち主が命の危機に瀕した時、一度だけ身代わりになる加護。

 無駄のない魔術式、均一な縫い目、わずかなほころびもない。相変わらず腕が良い。


「エフェさんには、ちょっとかわいすぎたかしら……」

「そんなことないだろ、それに、糸紡ぎの魔術師の渾身のお守りだ、いやがられないと思うぞ」

「もう、ヴァル……もう!」


 幼馴染に、その呼び名を云われるのに、セマはどうにも慣れない。きっと、ずっと慣れない。


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