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ずぼら野郎の休日

 今日は休息日。店のほとんどが休みで、バザールも例外ではない。

 日中に門が閉ざされたバザールを一望できると、一部の観光客は、あえてこの日にバザールの周りをうろつく。

 ラーファは帽子を外し、服も身軽なズボンに着替えてのバザールの外へ出ていた。

 大精霊としての威厳はパーだが、気ままに休日を過ごすのがラーファだと街には知れ渡っている。

 街の中心部から遠ざかると道の整備も行き届いておらず、割れ目だらけの石畳、砂利道や雑草だらけの小道が続く。

 民家も少なく、外灯もない。閑静な通りと同時に犯罪も起きやすい。

 祝福の子に何かあっては大問題。

 精霊院や街の領主からは何度も引っ越しをすすめられているが、家族と過ごした大事な家だ、エフェは断っている。

 そもそも、只人がエフェをどうこうしようなどできるわけがないのだ。

 父である大精霊と母の巫女が厳しくも大切に育てた子。学校へは通わなかったが、月の精霊院で神官が家庭教師をしてくれた。おかげで魔術の才は開花し、体術は免許皆伝。

 強盗犯はエフェの家に侵入しとした瞬間に魔術で失神させられ、エフェを繁みへ引きずり込もうとした暴行犯は投げ飛ばされ首の骨を折る重症を負った。

 深窓の令息といった、一般人の抱くイメージとは裏腹にやんちゃである。


「ごめんくださーい」返事がない。「エフェさーん」返事がない。しょうがない。「お邪魔しま~す」いつものことだ。


 エフェは居間で新聞を読んでいた。どの新聞も、昨日の小精霊狩りの残党摘発についてばかりだ。

 黙々と文字を追う様はさながら文学青年のようだが、虹色の双眸に温度は一切なかった。

 エフェにとって連中は排除すべき存在だ。怒りも憎しみも失望も抱かない、感情を向ける価値がない。

 ラーファも摘発の手伝いをしたが、エフェは掃除でもしているかのように逃走しようとする連中を縛り上げた。敵には無慈悲野郎。妙に手慣れていますわね、とはツッコみをしなかった。

 エフェのこんな顔、ヴァルトルやセマには見せられない。

 夜のバザールではヴァルトルとランプ屋を締め上げた。暴力沙汰にはしなかったようだが、少年まで怯えさせてどうする馬鹿野郎。


「エフェさん!」


 ようやくエフェは新聞から顔を上げた。


「ん、あれ、ラーファ、来てたんだ、いらっしゃい」

「はいどうも、いらっしゃいましたわ、あれ、じゃ、ございません」ラーファはべしべしとテーブルを叩いた。「昨日、家に行くと云いましたでしょう」

「まだ来ないかなって思ってて」

「もう十二の刻過ぎましてよ」

「えっ」


 ……こんなところも、少年少女には見せられない。


「とにかく、着替えて顔洗ってくださいませ、もうすぐフィリスさんもいらっしゃいますから……」

「こんにちは、エフェ君、ラーファさん、昨夜はお疲れ様でした」


 一足遅かった。


「ごきげんよう、フィリスさん」

「ど、どうも……フィリスさん……」

「寝間着で出迎えなんて、エフェ君たらお寝坊さんね」

「い、いや、起きてたんだけど、新聞読んでたらこんな時間に……」

「私とラーファさんとの約束があったのに、相変わらずのんびり屋さんね、部屋も片付いていないし、せめて先月分の新聞くらいまとめておけばいいのに、まったくもう──」


 しどろもどろなエフェに、フィリスはころころと笑う。目は微塵も笑っていない。


「ただの休みならいざ知らず、だらしないのもいい加減にしなさい!」

「ご、ごめんなさい」


 ラーファは叱られるエフェをしれっと見捨て、食事の用意を始めた。といっても、昨日のうちに買っておいたチーズパンを並べ、豆のスープを器に注ぐだけだ。


「ああもう、お姉様のずぼらなところばっかり似ちゃってああもう」


 説教を終えたフィリスは食器を洗いに台所へやってきた。

 エフェは大急ぎで身支度を調えている。


「フィリスさんも召し上がりませんか?」

「ありがとう、ラーファさん、ではスープだけ頂きます、それと私も、とうもろこしを持ってきたの、一緒に食べましょう」


 焼いたばかりのとうもろこしは、まだあたたかく、まろやかな甘みに、焦げ目のほろ苦さが絶妙だった。


「どうせ朝ご飯も食べていないんでしょう」

「ハイ」


 エフェは姉に頭が上がらない、正直に白状する。

 フィリスは呆れつつ、紅茶を淹れた。

 ……なんだかんだ世話を焼いてしまうから、エフェもお姉様もずぼらなままなんじゃ…… ラーファは気づいてはいけないことに気づいてしまった。黙秘しよう。


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