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そのバザールにおけるいくつかの噂話  作者: 川坂千潮
ユースグリットのバザールに売っていないものはない
2/23

たい焼きの定番はあんこ味

 少女は、憧れのバザールに、きょろきょろ目移りする。

 日焼けしにくい白い頬にはそばかすが散り、おろした髪に細かい三つ編みをいくつも結っている。


「んひゃひゃ、ひろいわ、すてきだわ」

「セマ、ぶつかるぞ」


 少年は、セマ・イーネのが人とぶつからないよう、さりげなくかばった。

 少年の頬や鼻梁にもそばかすが散り、長めの前髪で目がかくされている。


「ごめんなさいヴァル、でもね、だってバザールよ!」

「そうだな、バザールだな、ほら、またぶつかる」


 ヴァルトル・クプカはもう一度、セマの手を引いた。

 ドーム型の屋根に覆われた広大な敷地には、ありとあらゆる店が軒を連ねている。

 東方のお香。帝国で流行りのアクセサリー。公国の工芸品。

 スパイスたっぷりの煮込み料理。ぶわりと湯気立つ蒸し料理。

 値段交渉に売り文句。世界中の言語が飛び交う。


 まるでひとつの街だ。


 畜産をなりわいとし、草と野生のにおいのする二人の故郷とはまるで違う。

 場内は取り扱う商品ごとに区画が整備され、案内板もそこかしこに設置されている。

 それでも迷子は多発する。


 さて、おのぼりさん同然の少年少女は、小精霊にひっぱられ、道先案内人におすすめされた、バザール西エリア《道草通り》へ無事に辿り着いた。

 小精霊は手のひらに乗るほどちんまく、真っ白な毛玉で、言葉を発せず、只人には視えない。

 意思疎通ができるヴァルトルが珍しいのか、ひさしぶりに会話ができてうれしいのか、精霊らは少年に群がるのだ。


《道草通り》は子どもでも買いやすい手頃な値段の、地元の店が中心だ。

 腕利きの商人ですら、しばしば撤退を余儀なくされる巨大市場で看板を掲げる彼らは、まさに商いの街の住人。


「ねえヴァル」


 セマが足を止めた。店の看板には『たい焼き屋』と書かれている。

 あまいにおいと、聞き慣れない店の名前。「いらっしゃい、ちいさな魔術師さん」秀麗なかんばせの青年は、虹色に光る瞳をゆるりと細めた。


「まさか、人と精霊の子に会えるなんて……」


 セマの呟きは、珍しい生き物を発見した野次馬根性も、記者に売りつけるようなよこしまさもない。

 思いがけず隣人に出逢えたよろこびと感謝。

 エフェは、魔術師の少女の歓喜をしかと受け止めた。


「これでも結構たくましいんだよ」

 

「……紹介したかったのか?」

 ヴァルトルが小精霊に訊けば、彼らは満足げに鳴いた──たいやきもおいしいよ!



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