1-5
「くっそ〜〜〜、雄貴の奴また一人だけいい目にあいやがって。」
一人野次馬から逃げ出して雷太のところに行くとまだ寝ていたので、俺がナイフ(ナンパ男が投げつけてきた)で突っつくと「むぎゃぁぁぁ」という変な悲鳴と共に飛び起きた。最初こそ俺に文句を垂れていたが俺が雄貴の現状を話すと文句の対象が俺から雄貴へと変わっていった。
雷太も当然雄貴のところに行こうとしたが、野次馬が多かったので仕方なく諦めたのだった。
ついでに雷太がまたと言ったのには理由がある。雄貴はかなりのイケメンである、そして正義の味方のように困った人は助けるのがポリシーなのだ。その上文武両道で何でもできる奴なので、当然のごとくとてもモテるのだ。本人も多少は分かっているらしいが……
だから今回のように絡まれた女の子を助けると、大抵その女の子は雄貴に惚れるのだ。まあ俺にとってはいつものことだし、どうでもいいのだが。
しばらくすると野次馬が居なくなったので、雷太が雄貴のほうへ走っていった。俺が雷太の後ろからのんびり歩いていると前のほうから
「あああぁぁぁぁぁ〜〜〜」
と雷太の声がした。いい加減静かにしてほしいものだ。見ると雄貴はまださっきの女の子と一緒にいたようで雷太はそれに反応したらしい。
「うるさいぞ、雷太。こいつがモテるのはいつものことだろ?」
「そうじゃない、この女の子はあの南高の歌姫だぞ。お前それを早く言えよ〜!」
「歌姫? 何だそれ?」
「知らないのか!? 雄貴はどうだ?」
「少しだけなら聞いたことがあるぞ、歌で喧嘩をとめたとか。」
「そうそうその人だよ。」
(相変わらず裏情報に詳しい奴だな)
雷太が長ったらしい説明を始めようとしていたのでナイフ(再登場)を足元に投げつける。思ったよりもうまくいきナイフは雷太の足の間の地面に刺さった。いきなりのナイフ投げに驚いたのか雷太は驚いて固まっている。あと3分は大丈夫だろう。
「っていうか海斗、あそこで逃げるなよな。」
「だって俺目立つのとか嫌いだし。」
「あ、あの……」
女の子が遠慮がちに話しかけてきた。確かに今の俺たちの会話は慣れない人にとっては入りづらいものだろう。ちょっと反省…
「ん? あ、ごめんね。どうかした? もしかして雄貴と二人っきりになりたかったとか?」
「いえ、そうではなくて改めてさっきのお礼をしたくて。」
驚いたことにこの子は雄貴に惚れてはいないらしい。そういう人を見るのはまだ6人目だ、約100人中で。まあ、今後どうなるかは分からないけどな。
「だからいいって、俺は何もしてないし。」
「しました。ナイフから私を庇ってくれたじゃないですか。」
「あれはこっちに飛んできたから止めただけで…」
「じゃあ、私の前に動いてきたのは偶然ですか?」
「…………」
どうやらだったようだ。
「ふふっ、やっぱりそうじゃないですか。優しいんですね。」
「はぁ(何か違う気がするけど…)」
「本当にありがとうございました。私は神崎美羽っていいます、あなたの名前も教えてもらっていいですか?」
「俺は二階堂海斗、よろしく。」
「海斗さんですね、こちらこそよろしくお願いします。本当ならもっと話していたいんですが、友人を待たせているので失礼します。ではいつか必ずお返しをしますね、また会いましょう。」
そういってこちらに微笑むと走って去っていった。
その後復活した雷太が奇声を上げながら走って追いかけていこうとしたが俺と雄貴が殴って気絶させた。
そしてそのまま置いておくと邪魔になるので壁際に雷太を寄せておく。改めて周りを見まわすと知り合いのいる人が
多いらしく小さいグループがあちらこちらでできていた。多いところでは10人ぐらいのグループもあった。
そんな感じで時間をつぶしていると突然ホールに声が響いた。
「異世界の皆さん、ようこそお越しくださいました。」
しばらくの間不定期更新になると思います、すいません。