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もう、愛はいりませんから

 そう思った時だった。

 黒い影がオーウェンに突進し、そのまま壁に激突した。オーウェンから解放されたルクレティアは、咳き込みながら影を見た。

 

「リーヴァイ兄様!」


 兄がルクレティアの前に立ち、剣を抜きオーウェンに向けていた。

 オーウェンが目を見張る。


「時を戻したお前の魔力は、既に枯渇しているはずだ! ルクレティアに再び会いたくて、唯一私に勝ったその魔力を失ったからな! こうして戦いを挑むとは、やはり貴様は愚か者だ!」


 驚いてルクレティアはリーヴァイを見た。


(兄様が、時を、戻したの?)


 背中側からでは良く見えないが、リーヴァイが笑った気配がし、間をおかずに強烈な攻撃魔法の魔法陣が出現した。しかしオーウェンは冷笑する。


「また黒魔術を使ったのか、愚かだなリーヴァイ? 対価はなんだ? ん? その右目か!」


 リーヴァイの漆黒の髪が、揺れるのを見た。右目――? 見ると確かに、彼の顔には生々しい傷跡が、右目に覆いかぶさるようにして残されていた。

 リーヴァイは叫ぶ。


「彼女の人生は彼女のものだ! 貴様にどうこうしていいはずがない!」


「いいや違う! 彼女は私のために作られた! 暴走する私の力を抑え込むためだけに、作られた赤ん坊だった! 私のものだ!」


「愚か者は貴様だ! ルクレティアを愛していると言いながら、なぜあんな仕打ちをしたんだ! 愛しているのなら、あんなむごいことができるはずがない!」


 オーウェンが魔法を出現させた。暗がりに、二人の魔法陣が閃光した。次いで剣を、リーヴァイがオーウェンに向かって突き立てる。だがそれは届かず、逆にオーウェンの放った魔法陣がリーヴァイに直撃した。リーヴァイの体は吹き飛んで、壁に当たり床に倒れる。


「リーヴァイ兄様!」

 

 駆け寄り体に触れると、べったりと彼の血が手についた。傷口から、ぬらぬらと赤い液体が床へと流れ出ているのを、いくら手で止めても防ぎようがない。

 それに――。

 ルクレティアの体に悍ましさが駆け巡った。本能的な嫌悪だ。リーヴァイに手を触れているのが、恐ろしくて堪らない。涙が頬を勝手に流れた。


 オーウェンが立ち上がりながら目を細める。


「無理をしてはだめだよルクレティア。君に、リーヴァイへの恐怖心を植え付けているんだ。触れているだけでも、死にそうになるだろう? 逆に私の側にいると、とても安心するだろう」 


 なんて身勝手なことを、この人はやったんだ。ルクレティアは信じられない思いでオーウェンを見た。それでもリーヴァイから手を、離すことはない。

 

「リーヴァイよ、その魔術、未完成だな? 愚かだなあ、術が完成する前に、私に挑んだのだな? ルクレティアの記憶が改ざんされることが、それほど恐ろしかったのか?」


 リーヴァイは呻きながらも、体を動かし、立膝を突くようにして、ルクレティアの前に進んだ。血は流れ続けている。その様子をオーウェンは愉快そうに見て、リーヴァイを蹴り飛ばした。


「昔から貴様は魔力の高さを鼻にかけ、私を見下していたな。魔力の制御もできず、大事故を起こし、王家を追われた分際で」


 リーヴァイは、再び床に倒れる。オーウェンは両手に魔法陣を帯びた。


「さあ、とどめだリーヴァイ。私達兄弟の宿命に、ケリをつけようじゃないか」 


 あの魔術を放つのに、オーウェンは躊躇などしないだろう。


(あれが直撃したら、兄様は死んでしまう!)


 そう思った時、ルクレティアの体は動いていた。

 リーヴァイの前に進み出ると、オーウェンに頭を下げ、叫んだ。

 

「オーウェン様! わたしが間違っていました。愛は望みませんから! 兄様から、もう、愛はいりませんから……! だから、兄様を殺さないで……!」


 懇願だった。他に彼を守る術が、分からない。


(そうだ、あの時、わたしは愚かにも、想いを兄様に伝えてしまった。そうしてそれを、そのまま、殿下にも伝えてしまった――。全部、わたしが悪いんだ)


 すすり泣きながら、ルクレティアは言った。


「オーウェン様。わたしは貴方のものになります。生涯を、貴方に、捧げます」


 背後に横たわるリーヴァイから、悲しげな声が漏れる。


「だめだ、ルゥ……だめだ」


 ルクレティアは、リーヴァイを振り返った。右目のある場所には生々しい傷跡があり、腹からも血が流れている。それに彼は、自らの魔力の大多数を失って、ルクレティアの生きている過去を取り戻してくれた。

 切なさに、頭が狂ってしまいそうだった。


(わたしのために、リーヴァイ兄様はどれだけ奪われてしまったのだろう)


 この人から、これ以上何も奪えない。

 オーウェンが、恍惚とした表情で言った。


「ああ、可愛い私のルクレティア。恐怖心が、君を苛む。ようやく君は私を見てくれたんだね」


 オーウェンの手がルクレティアに触れ、立ち上がらせた。顔がすぐ近くに接近し、彼の吐息がかかる。

 

「愛の証をくれないか」


 口付けがあった。長い、長い口付けだった。

 彼の手が、ルクレティアの体に回る。ルクレティアも、彼の首に手を回して、言った。


「わたしの魔力は、とても弱いの。だから毎日、魔力を、溜め込んだ。わたしの身を、守るために。オーウェン様。貴方を愛したことなんて、ただの一度もなかった」


 瞬間、腕輪に魔力を込めた。ルクレティアの弱い魔力でもこの守護の腕輪は発動する。腕輪は内包した魔力を解放し、弾け飛び、オーウェンの首に深い傷を負わせ、赤い血を噴出された。同時にルクレティアの手首からも、夥しい量の血が流れる。

 勝利の余韻の間は無かった。間を置かずして、ルクレティアの腹に熱い一撃が入ったのだ。


「この! このアバズレが! この、腐った外道が! このクズがあ!!」


 驚くべきことに、オーウェンは生きていた。首の傷が、またたく間に治癒されていく。ルクレティアを絶望が支配した。強すぎるオーウェンの魔力は、致命傷をも即座に完治してしまう。


 だがその時、背後でリーヴァイが立ち上がった気配がした。振り返ると、彼の手には、まばゆい魔法陣がある。


「ルゥ、十分だ。ありがとう」


 確かな口調ではっきりとそう言う彼には、左腕がない。


「兄様! 何を……!」


 オーウェンも唖然とリーヴァイを見ていた。


 彼が何をしたかなんて、分かりきっていることだった。右目でもオーウェンを倒す魔力の対価には足らず、今度彼は、自らの左腕を切り落としたのだ。

 

「貴様のように歪んだ弟がいることが、俺は恥ずかしい。生涯、牢で反省するといい」


 オーウェンが何かを言いたげに口を開いたが、その前にリーヴァイの魔法が炸裂した。

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