シャルロットの初恋と失恋
建国記念舞踏会が終わってから、シャルロットは自室でため息を吐いてばかりいた。
塞ぎ込むのも無理はない。なぜなら、永年心に秘めてきた恋が、儚く散ってしまったからである。
彼女は豪奢なソファにもたれ掛かり、窓の外を眺めながら、過去に思いを馳せた。
そう、あれはまだ私が十歳だったときのこと。
◆◆◆
探索者というお仕事をされているお兄様が、皇太子宮にお戻りになられたと、侍女のルビアが知らせてくれたの。
久しぶりに頭を撫でて貰いたくて、一緒に遊んで欲しくて、シャルロットは心を踊らせながら、皇太子宮の入口まできて、硬直した。
そこには、見知らぬ銀髪の青年が立っていたからだ。
知らない人間は宮廷に大勢いる。
しかし、野生の猛獣のような気配を隠さずさらけ出しながら、宮廷の奥深くまで入ってくる人はいない。
かっ……かっこいぃ……!
それが、シャルロット十歳とラルジャン十八歳の出会いであり、彼女の片思いの始まりだった。
「おい、ルシオール! 誰か来たぞ!」
「誰かって……おや? ロッティじゃないか。どうしたんだい?」
「お、お兄様……その方はどなたですの?」
兄に抱え上げられたシャルロットだったが、嬉しさよりも兄の隣から、興味なさげに眺めてくる青年のことが、気になって仕方なかった。
「ラルジャンのことかい? 彼は私の頼もしい仲間だよ」
お名前はラルジャン様とおっしゃるのね!
ぴったりの名前で素敵だわ!
それに、お兄様の仲間ということは、彼も探索者だということよね。
未開の遺跡を探索したり、危険に満ちた魔物と戦うお仕事をしている方。
醸し出す雰囲気からも、私が知らない過酷な世界を潜り抜けてきた方だということが分かるわ……。
ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、兄の腕から抜け出し、彼に向かって淑女の礼をとる。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私、シャルロット・ゲンナイオン・ロプトルと申します。以後お見知りおきくださいませ」
「……ラルジャンとお呼びください皇女殿下」
これは……挨拶を返してくださったのかしら?
寡黙なところも、同年代の軟派な男の子たちより断然素敵だわ……!
しかしその日から、シャルロットとラルジャンが再び直接話す機会は訪れなかった。
彼らが英雄として、シャルロットの父、皇帝から勲章を授けられたときも、彼女は遠くから彼を見つめることしかできなかったのである。
◆◆◆
「やっと直接お話ができると思っていたのに……」
あんな美しい方とご結婚されていただなんて! あんまりだわ。
「皇女様……あまり落ち込まないでください。ロッティ様には笑顔がお似合いですよ……」
「ルビア、そうね……ため息ばかりついていても、過ぎてしまったことは、どうしようもないものね」
慰めてくれるルビアをありがたく思う。
例え相手が国の英雄だといっても、貴族出身でない限り、この恋が実ることはありえない。
それでも、彼に恋人や妻ができるまでは、甘い夢に浸ることができたのだけど。
「こうなることが分かっていたら……」
初めて会ったあの日に、一目惚れですと告白してしまえば良かったかしら。
「いいえ、これでよかったのよ」
あの日、彼に告白しても困らせてしまうだけだったでしょう。
あの場には兄もいた。
もし私が行動していたら、彼は英雄になるどころか、国外追放を言い渡されるか、下手をしたら皇女を誑かした罪で、処刑されていたかもしれないもの。
失恋で悲しむのは今日で終わりよ!
「ルビア、お父様に伝えてくれるかしら。シャルロットは覚悟を決めました。結婚相手を探してくださいと」
「それは……よろしいのですか?」
「ええ! どのような殿方が相手であっても、後悔はしないわ」
だって、その方を私好みに育てあげれば済む話ですもの!




