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英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
第一部の一話ごと完結番外編
57/60

シャルロットの初恋と失恋

建国記念舞踏会が終わってから、シャルロットは自室でため息を吐いてばかりいた。


塞ぎ込むのも無理はない。なぜなら、永年(ながねん)心に秘めてきた恋が、儚く散ってしまったからである。


彼女は豪奢なソファにもたれ掛かり、窓の外を眺めながら、過去に思いを馳せた。


そう、あれはまだ(わたくし)が十歳だったときのこと。


◆◆◆


探索者というお仕事をされているお兄様が、皇太子宮にお戻りになられたと、侍女のルビアが知らせてくれたの。


久しぶりに頭を撫でて貰いたくて、一緒に遊んで欲しくて、シャルロットは心を踊らせながら、皇太子宮の入口まできて、硬直した。


そこには、見知らぬ銀髪の青年が立っていたからだ。


知らない人間は宮廷に大勢いる。


しかし、野生の猛獣のような気配を隠さずさらけ出しながら、宮廷の奥深くまで入ってくる人はいない。


かっ……かっこいぃ……!


それが、シャルロット十歳とラルジャン十八歳の出会いであり、彼女の片思いの始まりだった。


「おい、ルシオール! 誰か来たぞ!」


「誰かって……おや? ロッティじゃないか。どうしたんだい?」


「お、お兄様……その方はどなたですの?」


兄に抱え上げられたシャルロットだったが、嬉しさよりも兄の隣から、興味なさげに眺めてくる青年のことが、気になって仕方なかった。


「ラルジャンのことかい? 彼は私の頼もしい仲間だよ」


お名前はラルジャン様とおっしゃるのね!


ぴったりの名前で素敵だわ!


それに、お兄様の仲間ということは、彼も探索者だということよね。


未開の遺跡を探索したり、危険に満ちた魔物と戦うお仕事をしている方。


醸し出す雰囲気からも、私が知らない過酷な世界を(くぐ)り抜けてきた方だということが分かるわ……。


ドキドキと高鳴る胸を抑えながら、兄の腕から抜け出し、彼に向かって淑女の礼をとる。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私、シャルロット・ゲンナイオン・ロプトルと申します。以後お見知りおきくださいませ」


「……ラルジャンとお呼びください皇女殿下」


これは……挨拶を返してくださったのかしら?


寡黙なところも、同年代の軟派な男の子たちより断然素敵だわ……!


しかしその日から、シャルロットとラルジャンが再び直接話す機会は訪れなかった。


彼らが英雄として、シャルロットの父、皇帝から勲章を授けられたときも、彼女は遠くから彼を見つめることしかできなかったのである。


◆◆◆


「やっと直接お話ができると思っていたのに……」


あんな美しい方とご結婚されていただなんて! あんまりだわ。


「皇女様……あまり落ち込まないでください。ロッティ様には笑顔がお似合いですよ……」


「ルビア、そうね……ため息ばかりついていても、過ぎてしまったことは、どうしようもないものね」


慰めてくれるルビアをありがたく思う。


例え相手が国の英雄だといっても、貴族出身でない限り、この恋が実ることはありえない。


それでも、彼に恋人や妻ができるまでは、甘い夢に浸ることができたのだけど。


「こうなることが分かっていたら……」


初めて会ったあの日に、一目惚れですと告白してしまえば良かったかしら。


「いいえ、これでよかったのよ」


あの日、彼に告白しても困らせてしまうだけだったでしょう。


あの場には兄もいた。


もし私が行動していたら、彼は英雄になるどころか、国外追放を言い渡されるか、下手をしたら皇女を(たぶら)かした罪で、処刑されていたかもしれないもの。


失恋で悲しむのは今日で終わりよ!


「ルビア、お父様に伝えてくれるかしら。シャルロットは覚悟を決めました。結婚相手を探してくださいと」


「それは……よろしいのですか?」


「ええ! どのような殿方が相手であっても、後悔はしないわ」


だって、その方を私好みに育てあげれば済む話ですもの!

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