黒翼の天神族[完](第一部完結)
「あんたたち! やっっと! 帰ってきたのね!! どこかで野垂れ死んだのかと心配したじゃない!? 連絡くらい寄越しなさいよっ」
浮島に戻った俺とミストラルは、ビリカの熱烈な歓迎を受けていた。
「クルムのことも相談したかったのに、肝心なときにいないんだから」
言いたいことを言ってスッキリしたのか、少し緩んだ口調でビリカが呟く。
その口調には僅かに不安と戸惑いの色が混ざっていた。
こいつがしおらしくなるのは珍しいな。
「……何かあったのか?」
「会った方が早いと思うわ」
会うっつうことは。
「やっと目覚めたんだな?」
「そうよ。夏になる前に……だけど……だけどクルム! 別神みたいになってるの!!」
俯けていた顔を上げ、ビリカが叫んだ。
薄らと目に涙まで浮かべてやがる。
「落ち着くのじゃ。ほれ、アルフェでも撫でるがよいぞ」
ミストラルがぬいぐるみでも与えるかのように、アルフェをビリカに差し出す。
「あ、アルフェぇぇ!」
ビリカに抱きつかれ、揉みくちゃにされてるアルフェを眺める。
あいつも大変だな。……強く生きろよ。
◆◆◆
ビリカが落ち着きを取り戻し、クルムの部屋に連れてこられた俺は、クルムを見てため息をついた。
「大袈裟なこと言いやがるから、どうなってんのかと思ったら、大人になってるだけじゃねえか……」
翼の枚数が三対に増えたのと、背丈が伸びただけで、温泉で眠りにつく前とさほど違いはねえ。
温泉で翼が増えるのはビリカで実証済みだし、クルムがゆっくりと成長してたのも知ってるからな。
大騒ぎすることじゃねえぜ。
「僕もこの姿になるなんて思ってもみなくて。……長いこと寝てましたよね。ご心配おかけしました」
クルムにとっては嬉しくないことらしい。
複雑な表情で自身の翼を触り、一呼吸おいて頭を下げてきた。
「いや、無事に目覚めて良かったぜ。それが本来の姿なのか?」
何らかの理由で、少年の姿になってただけなのか。
自分の姿に驚いてねえ反応から、記憶にある姿なんだろうな。
「そう……ですね。ちょっと複雑ですが。戻ってしまったのなら仕方ありません」
数瞬暗い表情を垣間見せたあと、気を取り直すようにクルムは笑った。
「ま、誰にでも言いたくねえことはあるから聞かねえよ」
ビリカがこの姿を知らなかったことは気になるが、わざわざ遺跡を覗いて魔物を見る必要もない。
「……助かります。ところでラルジャンさん、ビリカから聞いたのですが、黒翼の天神族と知り合ったりしました?」
その質問でエピリスのことが頭を過ぎる。
「あー、ちょっと……な。クルムは黒天族について詳しいのか?」
ビリカに聞いた内容より正確な情報が分かれば、これからの行動にも役立つんだが。
「黒天族? あぁ、黒翼の天神族だからですか。分かりやすくていい名づけ方ですね。……黒天族、ああなった天神族は正気じゃありませんから、当事者のためにも、安息を与えるのが一番だと思います」
思い当たる存在でもいるのか、いつになくキッパリとした口調でクルムは言う。
「過激な発言だな」
もっと穏便な対応策を出してくるかと考えてたが、こいつも根は天神族なんだな。
穏やかそうに見えて、その実激しいやつらしい。
「そうですかね?」
とぼけてるのか、ほんとに理解してないのか、首を傾げるクルムをぼんやりと見つめる。
「まあいい。俺もそいつらを見つけ次第、手を下そうと決めてるからな」
クルムが俺と同じ考えなら好都合だ。
「……手伝います」
「いいのか? 曲がりなりにも同族だった奴らだろ」
手を貸してくれるとまで思わなかったぜ。
「同族だったからですよ。ラルジャンさんも、仲間が狂った姿を見続けるのは嫌でしょう?」
操られていたルシオールの姿が浮かび上がり、眉を顰める。
「あぁ分かる。反吐が出るぜ」
あんな姿を見るのは、二度とごめんだ!
「じゃ、これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
相棒のミストラルと、精霊のアルフェ、天神族のビリカとクルム、こんだけ仲間がいれば、大抵の困難は乗り越えられるだろう。
◆◆◆
こうして、寄り道を加えた、黒天族探しの旅が幕を開けることになった。
第一部完結です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次話は番外か、第二部どちらかになると思います。
引き続きお読みいただけると幸いです。




