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英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
黒翼の天神族
55/60

黒翼の天神族[完](第一部完結)

「あんたたち! やっっと! 帰ってきたのね!! どこかで野垂れ死んだのかと心配したじゃない!? 連絡くらい寄越しなさいよっ」


浮島に戻った俺とミストラルは、ビリカの熱烈な歓迎を受けていた。


「クルムのことも相談したかったのに、肝心なときにいないんだから」


言いたいことを言ってスッキリしたのか、少し緩んだ口調でビリカが呟く。


その口調には(わず)かに不安と戸惑いの色が混ざっていた。


こいつがしおらしくなるのは珍しいな。


「……何かあったのか?」


「会った方が早いと思うわ」


会うっつうことは。


「やっと目覚めたんだな?」


「そうよ。夏になる前に……だけど……だけどクルム! 別神(べつじん)みたいになってるの!!」


(うつむ)けていた顔を上げ、ビリカが叫んだ。


(うっす)らと目に涙まで浮かべてやがる。


「落ち着くのじゃ。ほれ、アルフェでも撫でるがよいぞ」


ミストラルがぬいぐるみでも与えるかのように、アルフェをビリカに差し出す。


「あ、アルフェぇぇ!」


ビリカに抱きつかれ、揉みくちゃにされてるアルフェを眺める。


あいつも大変だな。……強く生きろよ。


◆◆◆


ビリカが落ち着きを取り戻し、クルムの部屋に連れてこられた俺は、クルムを見てため息をついた。


「大袈裟なこと言いやがるから、どうなってんのかと思ったら、大人になってるだけじゃねえか……」


翼の枚数が三対に増えたのと、背丈が伸びただけで、温泉で眠りにつく前とさほど違いはねえ。


温泉で翼が増えるのはビリカで実証済みだし、クルムがゆっくりと成長してたのも知ってるからな。


大騒ぎすることじゃねえぜ。


「僕もこの姿になるなんて思ってもみなくて。……長いこと寝てましたよね。ご心配おかけしました」


クルムにとっては嬉しくないことらしい。


複雑な表情で自身の翼を触り、一呼吸おいて頭を下げてきた。


「いや、無事に目覚めて良かったぜ。それが本来の姿なのか?」


何らかの理由で、少年の姿になってただけなのか。


自分の姿に驚いてねえ反応から、記憶にある姿なんだろうな。


「そう……ですね。ちょっと複雑ですが。戻ってしまったのなら仕方ありません」


数瞬暗い表情を垣間見(かいまみ)せたあと、気を取り直すようにクルムは笑った。


「ま、誰にでも言いたくねえことはあるから聞かねえよ」


ビリカがこの姿を知らなかったことは気になるが、わざわざ遺跡を覗いて魔物を見る必要もない。


「……助かります。ところでラルジャンさん、ビリカから聞いたのですが、黒翼の天神族と知り合ったりしました?」


その質問でエピリスのことが頭を()ぎる。


「あー、ちょっと……な。クルムは黒天族について詳しいのか?」


ビリカに聞いた内容より正確な情報が分かれば、これからの行動にも役立つんだが。


「黒天族? あぁ、黒翼の天神族だからですか。分かりやすくていい名づけ方ですね。……黒天族、ああなった天神族は正気じゃありませんから、当事者のためにも、安息を与えるのが一番だと思います」


思い当たる存在でもいるのか、いつになくキッパリとした口調でクルムは言う。


「過激な発言だな」


もっと穏便な対応策を出してくるかと考えてたが、こいつも根は天神族なんだな。


穏やかそうに見えて、その実激しいやつらしい。


「そうですかね?」


とぼけてるのか、ほんとに理解してないのか、首を傾げるクルムをぼんやりと見つめる。


「まあいい。俺もそいつらを見つけ次第、手を(くだ)そうと決めてるからな」


クルムが俺と同じ考えなら好都合だ。


「……手伝います」


「いいのか? 曲がりなりにも同族だった奴らだろ」


手を貸してくれるとまで思わなかったぜ。


「同族だったからですよ。ラルジャンさんも、仲間が狂った姿を見続けるのは嫌でしょう?」


操られていたルシオールの姿が浮かび上がり、眉を(しか)める。


「あぁ分かる。反吐が出るぜ」


あんな姿を見るのは、二度とごめんだ!


「じゃ、これからもよろしく頼む」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


相棒のミストラルと、精霊のアルフェ、天神族のビリカとクルム、こんだけ仲間がいれば、大抵の困難は乗り越えられるだろう。


◆◆◆


こうして、寄り道を加えた、黒天族探しの旅が幕を開けることになった。

第一部完結です。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


次話は番外か、第二部どちらかになると思います。

引き続きお読みいただけると幸いです。


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