事件の後
舞踏会場に戻った俺は、皇帝にルシオールを引き渡し、何食わぬ顔でミストラルの元に戻ろうとしたところ、まあ、引き止められた。
そんで、息子を救ってくれてありがとうだとか、自身を守ってくれて感謝するだとか、エンハンブレ伯爵には余罪を追及するうんぬん、長ったらしい話を、威厳に満ちた態度と、言葉遣いでされたわけだ。
で、特大級に面倒な決定事項を告げられた。
伯爵位の叙爵だ。いや、本気で無理。しかも、エンハンブレ伯爵領を、領地として渡されることになり、全てぶん投げて、帝国外に逃亡しようかと考えてる。
皇帝から言われたことだから、叙爵式には参加するし、領地も受け取っとくが!
上手く治める自信はねえ。
貴族として教育を受けてないのは皇帝も分かってる。
領地は皇帝に信頼されてる臣下が、俺に代わって立派に治めてくれるだろうと信じることにした。
◆◆◆
格式ばった叙爵式の話は、思い出すのも疲れるから記憶の彼方に放り投げておく。
皇帝から伯爵位を賜った俺は現在、皇太子宮でルシオールと近況を報告し合ってるところだ。
「いともたやすく操られるとは、考えたこともなかった。君には本当に感謝している」
「いや。お前を無事に救えて良かったぜ。そもそも、あんな存在がいるだなんて、誰も知らなかっただろ」
黒い翼さえ隠せば、人間種に紛れ込んでしまえる。
ビリカみたいな天神族も油断ならねえが、黒天族はそれが狂気に陥った後の存在だ。
余計タチの悪い奴らだっつうのは、今回の件で身に染みた。
「そうだな。これまで以上に、世情を気にかける必要がある」
「何もかも一人で背負い込もうとするなよ。黒翼の天神族は見つけ次第、排除してやるから」
「あれは、天神族なのか?」
ルシオールが紅茶を飲む手を止め、俺に視線を向けて聞いてくる。
「正確には、もと天神族らしい。俺は黒天族って呼んでるが」
「そうか……。なら黒天族については君に任せよう。竜騎士の力も貸すから、よろしく頼む」
「ああ。上手くやるから心配すんなよ。ところで、グレースとの関係は修復できたのか?」
舞踏会の日から日が経ってるし、エンハンブレっつう害悪もルシオールの傍から消えた今、グレースは単身で宮廷に戻ってきたらしいが、気性の激しい彼女のことだ、一悶着あっただろう。
「まあなんとか、最悪の事態は免れたよ。今年中には結婚式を挙げる予定だ。その日が決まったら知らせよう。無理にとは言わないが、見にきてくれたら嬉しいよ」
ルシオールは微かな笑みを浮かべる。
こいつの表情が変わることは滅多にない。余程機嫌がいいらしい。
「それはめでたいな! 婚約してから何年目だ?」
俺がルシオールたちと探索を始めたときには既に婚約してたはずだ。
ということは、婚約してから少なくとも、七年以上は経ってるのか。
機嫌がいいのも無理はない。
「十二年くらいだ。私については置いておくとして、ラルジャン、君いつから竜族になったんだい?」
冗談めかした口調とは裏腹な眼差しで俺を見てくるルシオールに、俺は頭を搔く。
「……ばれてたのか。あー、これには訳があってな」
帝国から逃亡して、今まであったことを掻い摘んで伝える。




