建国記念舞踏会
ロプトル帝国に、春を告げる花が咲き始めた頃、俺とミストラルは、舞踏会に出席するため、帝国の首都にやってきた。
ナイトフォール侯爵家の人々は、侯爵以外、出席を見合わせることにしたようだ。
欠席の理由は、アメリアとリダルの子が、そろそろ産まれるから、ということにしたらしい。
本当の理由は、グレースが現場で大暴れするのを、防ぐためなんだろうが。
首都にある、ナイトフォール侯爵邸で、客人として扱って貰えることになった俺たちは、舞踏会の準備に追われている。
大変なのはミストラルだけどな。
さっさと正装に着替え終わり、侯爵邸の客室でミストラルを待っていると、準備を終えた彼女が、這々の体で客室に入ってきた。
「貴族とはなんと面倒な存在なのじゃ」
「口調がいつものままだぞ。レナウン夫人?」
黙ってれば、神秘的な美少女だと言われる格好なのに、話し方で全てが台無しだ。
「私はミストラル・レナウンと申します」
感情がこもってなさすぎて不自然だな!
「ミストラル。お前は俺の隣で、微笑んでるだけでいい」
静かに佇んでる方が断然ましだぜ。
「わらわもその方がいいのじゃ」
顔を見合わせ頷き合う。
◆◆◆
宮廷の舞踏会場につき、ナイトフォール侯爵とはわかれ、静かに場内に入る。
変に目立つと貴族どもが寄ってくるからな……。
壁際で皇帝一族が入場するのを待ちながら、華やかな会場内を見渡す。
年に一度の記念舞踏会だ。
ほとんどの帝国貴族が参加し、思い思いの場所で会話を楽しんでる。
皇帝派貴族に、ナイトフォール侯爵を中心とした中立貴族と、天神族にのめり込んでる教国派貴族か。
誰がどの派閥の貴族か、一目瞭然だな。
「ゾンネフェルトゥール・ゲンナイオン・ロプトル皇帝陛下並びに、オリヴィア・ロプトル皇后陛下のご入場です!」
その声が響き渡った瞬間、会場は一瞬にして厳かな空気に包まれた。
男性貴族は最敬礼を、女性貴族は淑女の礼をとる。
もちろん俺とミストラルも同様に、姿勢をとった。
「エクセルシオール・ゲンナイオン・ロプトル皇太子殿下のご入場です!」
エピリス伯爵令嬢を伴わないっつう、判断はできるんだな?
その後も次々と皇帝一族が入場し、成人最年少の第二皇女シャルロットを最後に、長い紹介が終わる。
あの小さかった皇女が、もう成人か。
初めて会ったのは、ルシオールに連れられて、皇太子宮に行ったときだったな。
感慨深いぜ。
皇帝の挨拶がその後に続き、建国記念舞踏会が幕を開けた。
◆◆◆
「ラルジャン・レナウン卿……。いつの間にご成婚されたのですか」
皇族席から降りてきた第二皇女シャルロットが、目の前で声を震わせながら言ってくる。
「つい最近でございます。皇女殿下におかれましては、ご成人おめでとうございます。失礼ながら、ときの流れは早いものだなと、痛感しております」
宮廷流の話し方に苦闘するが、会場から追い出されないためにも、必死で取り繕う。
「そう……ですわね。私も痛感……いたしましたわ。……お美しい方ですこと」
風邪でも引いてんのか?
発声が苦しそうだ。
「皇女殿下におかれましては、ご無理をなさいませんよう」
シャルロットに労りの言葉をかけながら、横目でルシオールの行動を観察する。
ホールに降りてダンスするわけでもなく、ナイトフォール侯爵に声をかけるでもなく、皇族席に座ったまま微動だにしない。
エピリスが近くにいなくても、操られっぱなしなのか?
っつうか! エピリスとエンハンブレ伯爵が会場に居ねえのは、どう考えてもおかしいだろ!
俺がナーギウスに提案したのは、竜騎士たちをルシオールから引き離すことだけだぞ。
ルシオールが竜騎士に守られてたら、近寄れねえからな。
あいつを観察してると、姿が二重にぶれた。
なんだ?
ルシオールが皇帝に向かって、剣を抜き放つ姿を幻視する。
いや、あいつは動いてねえ。なんだこれ?
急に目がおかしくなりやがった。
「あら……? 猫?」
シャルロットの声で我に返る。
「アルフェじゃの」
ミストラルの腕の中に、金色の猫がいた。
『時を見通す精霊』サクヤの言葉がよみがえる。
アルフェの仕業に違いねえ!
さっきの幻視は、未来の動きを再現したやつか!?
直感に従い、ミストラルに睡眠魔法の合図を送る。
彼女は俺の意図を理解し、会場全体に魔法を放つ。
皇族席には効果が及ばなかったが、それ以外の貴族たちは眠りに落ちていく。
「なんだか……ねむく」
シャルロットも例に漏れず、睡眠魔法にかかる。
ミストラルがシャルロットを、床に横たえるのを尻目に、俺は皇族席に向かって跳躍した。




