浮島の温泉
臨時宿舎の部屋でミストラル、サクヤ、リダルの三人と合流した俺は、王宮でのできごとを簡潔に説明した。
「サクヤもノアたちと行っちまったかと思ってたんだが、どうしてここに居るんだ?」
サクヤもノアたちの協力者だろ。置いてかれたってのは考えづらいよな……。
「ノア様は森人族の国に向かわれました。あの国には特別な事情がないと入れませんので、私はお留守番です」
入国制限してる国か。どんな場所なのか気になるが、サクヤでも入国できねえなら、俺も無理だな。
「なんでノアはその国に行ってんだ?」
レントの治療なら、わざわざ森人族の国に行く必要はないだろ。
ノア自身が仁術師なんだから。
「殿下を治療するためには、そうするしかなかったみたいです」
「なるほど」
ノアの手に負えないほど、レントは重体なのか。
まあ、体中から出血してたし、あの時点で意識があったのが奇跡だろ。
「瀕死の状態から回復したら、私がいる場所に戻られると思うので、ティアーリカ様にお会いしたければ、しばらくここに滞在、よろしくお願いします」
ティアーリカには会わないとだからな。レントたちが戻るまで、結構時間がかかるか……?
何もしないで待つより、有意義なことして過ごした方が良さそうだ。
俺はミストラル、サクヤ、リダルの顔を流し見て、あることを閃いた。
「じゃ、戻ってくるまでに、リダルの記憶でも取り戻すとするか」
そう、リダルの記憶だ。アルフェに頼んで、リダルに過去の夢を見てもらおう。
記憶が戻るかはともかく、やってみねえと分からねえからな。
「私の? ……どのような方法で取り戻すんです?」
首飾りの肖像画を見ていたリダルが、パッと顔を上げて俺に聞く。
アメリアのことが気になって仕方ないみたいだな。
「それは──」
リダルに方法を伝えようと口を開いたとき、俺の頭上に影が差す。
「サクヤ。お待たせしました」
……ノア、おまえかよ……。
レントとティアーリカを抱えて、ノアが空間から現れた。
唐突に出てくんのやめねえ? 毎回驚くんだよ! それから
「戻ってくんの、早くね?」
精霊の道は、場所だけじゃなく、時間も飛び越えてんじゃねえの?
ノアたちが王宮から消えて、そんなに経ってないよな。
「悔しいことに、私より優秀な仁術師が居るんですよ。あの国には!」
いや、聞きたいのはそれじゃねえ……。
レントとティアーリカは眠っていた。
服を着てるからなんとも言えないが、レントの状態は悪くないように見える。
呼吸が荒いわけでも、体から血を流してるわけでもない。
命の危機は去ったみたいで安心だ。
「あ、そう。……ティアーリカの翼の枚数は戻ってないんだな」
過去の夢では、三対の翼があったのに、未だ一対のままだ。
「天神族の治療法は知りません。というか、信仰力でしか治りません」
天神族……。外見は人間と大差ねえのにな。根本的に種族が違うのか。
この国で、天神族を信仰してる人間はどのくらい居るんだろう。
居たとしても、少数だろうな。それなら、いっそのこと、天神族が暮らす浮島に、こいつらを連れて行くのはどうだ?
「……この国は今、混乱の真っ只中だよな。良かったら、俺が拠点にしてる浮島に来ないか?」
ミストラルに目配せで確認しながら、ノアたちに聞く。
「そこな天神族のためにも、それが一番だと、わらわも思うぞ」
俺の意図を察してくれたミストラルが、一言加える。
「……浮島、興味深いですね。良いでしょう」
「この国に居続けるよりは、絶対に安全ですよね」
ノアとサクヤがそれぞれ頷いた。
「ノアさんとサクヤさんが良いのでしたら、私も賛成です」
二人の様子でリダルも心を決めたらしい。
全員の賛同を得た俺は、羽飾りを握り締め、浮島の姿を想像する。
もちろん、皆を連れていく想像も同時にした。
◆◆◆
「ちょっとあんた! クルムの羽根でそんなに人、連れてくるなんて、何考えてんのよ! クルムの力が弱っちゃうでしょっ!?」
全員を無事に浮島まで連れてきた俺は、ビリカに詰め寄られていた。
「この羽飾り、クルムの力を消費してたんだな? 知らなかったとはいえ、すまん。クルムにも謝罪しねえとな」
「分かればいいのよ。今度から気をつけてよね! ……この話は終わりとして、私凄いことに気がついたの」
ビリカは言いたいことを言って満足したのか、ミストラルがつくった温泉を指さしながら、話題を変えた。
「凄いことじゃと?」
ミストラルが首を傾げる。
「ほら! 私の背中を見て、何かに気づかない?」
俺らに背を向け、ビリカが言うものだから、ジッと観察してみた。
……小さいが、翼の枚数が増えてやがる!
前までは一対の翼しかなかったとこに、もう一対の小さな翼が生えていた。
「ビリカ、お前、力が強くなったのか?」
「そう。そうなのよ! ミストラルがつくった温泉のおかげで、木の洞で寝てるより早く、強くなれるみたい! だから、クルムも温泉に放り込んじゃったわ!」
……寝てるクルムを温泉に? 溺れてんじゃねえの? 大丈夫だろうか……。
「天神族が温泉に入って強くなれるんなら、ティアーリカも温泉に入れてみようぜ」
物は試しだ。水中でも呼吸ができるよう、ミストラルに魔法をかけて貰えば、溺れる心配もないだろう。
俺の提案は皆に受け入れられ、ついでに全員、温泉に入ることになった。
◆◆◆
「まだ癒えてなかった傷が治りました……」
男湯の休憩室でノアがポツリと呟いた。
俺との対戦で傷ついたとこか?
「人間の体にも効果があるとは、驚きだな」
ミストラルがつくった温泉だからか? 不思議だぜ。
「レントさんを温泉に入れましょう!」
リダルはノアの言葉を聞いて、素早く反応した。
人間の体も癒えるなら、レントを温泉に入れないわけにはいかねえよな。
ミストラルに頼んで水中呼吸魔法をレントにかけて貰った後、レントを温泉に浸からせた。
結果、ゆっくりとだが、確かにレントの傷が薄まっていくのが分かったんだ。
「魔力と信仰力がいい具合に混ざったのかのぅ。やはり温泉とはいいものじゃろ?」
……ドラゴンであるミストラルにも原因が分かんねえのかよ!
この温泉をつくったのはお前だろ……?
原因は分からんが、温泉に人と天神族、両方を癒す力があることは分かった。
レントとティアーリカが回復するならそれでいい。
「二人が回復する目処がたったところで、リダル。お前、ちょっと寝て過去を夢で見てこい」
「はい……?」
二人が温泉に籠ってる間に、俺はアルフェに頼んで、リダルに過去の夢を見させることにした。
リダルは戸惑いの声を上げてたが、お前の記憶が戻らねえと俺も困るんだ。




