空いた玉座
レントが向かった先には、倒れたティアーリカがいた。
「……ティア……。大丈夫かい……?」
やはり近衛兵に刺されたことは、レントの身体に響いてるらしく、発する言葉が途切れ途切れだ。
今すぐ仁術師が必要だろ!
「でん……か……?」
ティアーリカが目覚めた。掠れた声でレントに話しかけている。
隷属の首輪は、主として登録した者が死ぬと効力を失う。
ティアーリカの自由意思が戻って良かったぜ。
「三年も。……遅くなって……ごめん」
レントがティアーリカを優しく抱きしめる。
「血が……!?」
ティアーリカはやっと、レントの状態に気づいたらしい。愕然とした表情になる。
ここにクルムでもいたら、レントの回復を願ってやるのに!
俺が居ても何の役にも立てやしねえ。
「王子! 助けにきましたよ! ひとまず逃げましょう」
……ノア?! どっから出てきた!
何もない空間から姿を現したノアは、レントとティアーリカを連れて王宮から消える。
俺は置いてけぼりかよ! 対戦で俺に負けたこと、根に持ってんのか?!
っつうか! ティアーリカまで連れてかれたら、ユリエールでの依頼、達成できねえんだが!?
……ノアは仁術師だ。レントの無事は信じてもいいんだよな……。何もない空間から出てきたのは、精霊の道ってのを使ったからなんだろうか。
王がレントに殺され、玉座が空いちまったが、この国はどう収拾つけるんだ?
◆◆◆
王宮の人間が右往左往してる中、一人の女性が大勢の兵士を引き連れて、決闘場に入ってきた。
「鎮まりなさい! 何事ですか? みっともない!」
「第一王女殿下! 今までどちらに? 国王陛下が──」
「ヘイディアお姉様!」
決闘場の隅っこに隠れてたらしいアイーシャが、第一王女と呼ばれた女性の元に走り寄る。
……ヘイディア……。最近どっかで……。ん? ディーか!
「アイーシャ。無事で良かったわ。城下町で助けを求めた甲斐があったわね」
お前が第一王女だったのかよ……。
「陛下が殺された? 下手人は?」
ヘイディアが適当な近衛兵を呼び寄せて聞いている。
「深手を負わせましたが、行方不明です」
国王の近衛兵は、第一王女のヘイディアを疎ましく思ってる訳じゃなさそうだ。
ヘイディアを遠ざけてたのは、国王だけだったってことか?
「既に死んでるのでしょうね。捜索は打ち切ります」
……そんな簡単に済ませていい問題じゃねえと思うんだが?
自身の父親が殺害された事実を知っても、眉ひとつ動かさないヘイディア。
恨みの深さが伺えるぜ。
下手人を探さないのも、私情が混じってんじゃねえかな。
「ですが!」
「お黙りなさい。今は空いた玉座を、早急に埋めることの方が優先でしょう!」
口答えしようとした近衛兵を遮り、苛烈な口調でヘイディアは物事を進めていく。
「跡継ぎが居ないのですよ。どう埋めろとおっしゃるのですか!」
やっぱ、この国に王子は居ないんだな。
王女には継承権がないのか? ……国王がヘイディアを跡継ぎにしたくなかっただけなのかもしれねえ。
どっちだ?
「私が戴冠いたします。天神教国にも根回しを済ませましたので」
後者の方か。
……気が強い王女も居たものだ。ヘイディアがこの国の女王になるなら、いずれこの国もいい方向に成長できるかもな。
俺がここにずっと居ても意味ねえだろ。ミストラルのとこに戻って、ティアーリカたちを探しに行くとするか。
「そこに居る勇士よ! 妹を助けてくれたこと、感謝いたします。褒賞は後日、必ずお渡しいたしますので、ディーという名をお忘れなく!」
俺の存在を目ざとく見つけたヘイディアが、王女の威厳を崩さず伝えてくる。
「国が安定してからでいいぜ。またな」
この国には問題が山積みだろう。できれば、奴隷制度は真っ先に廃止して欲しい。
俺は誰に追われることもなく、王宮から立ち去った。




