比武大会[決勝戦]
午後から始まる予定だった決勝戦は、あいにくの雨によって、王宮内の決闘場で行われることになった。
決勝戦の相手は言うまでもないことだが、レントである。
レントに蹴散らされた、リダル含めた参加者たちには同情するぜ。
闘技場の観客たちは、屋根のある場所に移動し、映像投影魔石で俺とレントの対戦を観戦するようだ。
王の愛妾、近衛兵や王族たちだけは、俺らの間近で観戦するらしく、急遽豪華な観客席が、決闘場に設けられた。
王宮内に移動する前、俺はミストラルに、サクヤとノアに気を配るよう、お願いした。
レントの目的を把握できてない今、何があってもおかしくない。
ノアとサクヤはレントの協力者だ。
ミストラルに見張って貰っていれば、安心だからな。
バシッ──
観客席の方から、痛烈な打撃音と共に、ドサッと何かが倒れる音が聞こえた。
「天候の操作も満足にできんとは、役に立たぬ!」
この国の国王ボリスベルングが、天神族であるティアーリカの髪を、乱暴に掴みあげ引き摺る。
……最低最悪な、ど畜生じゃねえか!
さっきのは、ティアーリカが国王に殴られ、倒れ伏した音だったんだな……。
王の愛妾たちは、怯えて縮こまってる者と、ティアーリカを嘲るように見てる者に分かれている。
いつもの光景なのか、近衛兵たちに動揺の気配は感じられない。
……腐ってるぜ。
「こんな狭い決闘場では、せっかくの決勝戦が、迫力に欠けると思わぬか?」
気を失っているティアーリカに、興味をなくしたらしい国王は、決闘場を見渡した後、横に立っている人相の悪い男に目配せした。
「そうでございますね。それでは──」
騎士団長なのか、相談役なのか知んねえが、あの男が国王に、ろくでもない提案をしたのだけは分かるぜ!
国王の目が、暗い愉悦に歪んだからな。
っつうか、まじで第一王女らしき女性がいねえ。
ディーは王女に仕えてるって言ってたんだ。存在してんのは確かなはずだぞ。
「二人の勇士よ! 優勝方法を変更する。心して聞くが良い」
言うこと聞きたくねえ! ぜってぇ、まともなことじゃねえだろ。
「──してやる」
横目でレントを確認する。
雷属性魔力でも漏れだしてんのか、レントの黒い髪がパチッ、バチッと閃きを放っていた。
……怒りで我を忘れてたりしねえよな?
「優勝商品は我が娘、第二王女アイーシャと結婚することだとは、心得ておろう。よって、娘を魔物の脅威から救い出した方を優勝者とする!」
あ、この国王、狂ってやがる。実の娘を、自身の楽しみのために使いやがった。
◆◆◆
決闘場内に、動けないよう棒に括り付けられたアイーシャが、近衛兵たちによって運ばれてきた。
助けてくれる勇士はどちらかしら? と言うように、アイーシャの顔には微笑が浮かび、何の恐怖も感じてない仕草を見せてくる。
……虚勢だな。国王に笑えとでも言われたか?
微笑を浮かべた唇は微かに震え、目には薄らと水の膜ができている。今にも雫となって零れ落ちそうだ。
って、第二王女は獣人族かよ!? 愛妾の子……なんだな。
決闘場の中央にアイーシャが放置されると共に、四足歩行の人肉を好む魔物が十匹ほど解き放たれた。
「さあ! 囚われの姫を救いたまえ!」
国王の喜悦に乱れた笑い声が、決闘場内に響き渡る。
アイーシャには魔物寄せの魔法でも掛けられてるのか、魔物たちが俺らに見向きもせず、アイーシャだけに寄っていく。
「王女のことは君に任せるよ」
レントが俺とすれ違いざまに言い残し、国王に向かって駆ける。
「待て! レントッ」
お前の目的は国王か!!
クソが! 王女を見殺しにはできねえ……。
俺は二本の大剣を風魔法で操り、アイーシャに近い魔物から屠っていく。
俺自身も、一本の大剣で獲物を斬り捨てる。
……早くしねえと、手遅れになっちまう!
◆◆◆
魔物を殲滅し、アイーシャを縄から解放した。
礼を述べてくるアイーシャに、上の空で答えレントが向かった方を見る。
「我が名はシンラ・レント! 今はなき森羅国の第二王子だ! きさまの首を刎ねた者の名。よく覚えておくがいい!」
王女を助け出しても、国王の反応がなかったのは、あのせいか……。
そこには、レントが国王を殺害した後の、凄惨な光景が広がっていた。
王妃はいつの間にか居なくなり、愛妾たちは我先にと逃げ出す。
そして、王を守れなかった近衛兵たちが、レントに対して、続けざまに刃を突き立てる。
……死ぬ気か!? 死なせねえ!
俺は空を飛びレントの方に向かった。
レントは自身の体に突き刺さった剣を、意に介してないかのように、全身から血を流しながら、どこかへゆっくりと歩き出す。




