アルフェの悪戯
明日を楽しみに、部屋で眠りについたはずの俺だったが、暗闇の中で意識だけが覚醒したようだ。
辺りを見回しても、闇が広がってるだけでなにもない。
と思いきや、金色の翼を持つ猫アルフェが、目前に現れた。
「アルフェ……。過去を見せるなって言ったよな」
また何か見せてくる気か? まだ子どもだから、言っても理解できなかったんだな!? サクヤは精霊を神格化し過ぎてんのかもしれねえ……。
『たいせつなきおく。みて』
アルフェが話した? たどたどしい言葉だったが、今の声はアルフェから聞こえたぞ!
俺が意表を突かれ呆然としてる間に、暗闇からまばゆい光が差し、周りの景色が変わった。
◆◆◆
高い山とそこから流れる川。川の畔で農作業をしてる村人たち。汗を流しながらも笑い合ってる。
長閑な景色だな。って、誰の過去だこれは!
赤い湖と王宮。湖の端には赤い結晶があり、結晶を売り買いする人々の姿が見える。
俺の過去を見たときと同じで、断片的かよ……。
赤い結晶は塩の塊だろうな。てことは、あの湖は塩湖か。
「アルフェやめろ」
誰の過去かは分からねえが、人の過去を勝手に見るなんざ、倫理的に問題だろう。
『ひつよう』
言うこと聞かねえ精霊だなぁ!
立派な聖堂に、三対の翼を持った天神族が降り立つ。
空から舞い降りたその姿は、天神教徒でなくても神聖さに心揺さぶられる光景だった。
あの天神族、翼の枚数は違うが、ティアーリカ……か?
ティアーリカが、王宮の窓辺で、教会で、湖の畔、花園、様々な場所と時間で美しい歌を響かせている。
開幕式での無表情とは、似ても似つかねえ。
……誰の過去なんだ、この光景は。ほとんどティアーリカばかりじゃねえかよ……。
幸せそうな表情で飛び込んでくるティアーリカ。
顔が近い。俺はティアーリカの恋人か、友人の過去を見せられてんのか。
「この過去が何だって言うんだ……」
気まずい、無理やり見せられてる過去が、逢瀬場面だなんて、やってらんねえぜ!
『だまってみてて』
この猫! 俺が怒らねえとでも思ってんのか?
アルフェを睨みつける。それでもアルフェは飄々としながら、俺に見せる場面を変えていく。
◆◆◆
山から流れていた川は凍り、村には火が放たれ、村人たちが兵士から逃げ惑っている。
ある者は無惨に殺され、ある者は捕虜や奴隷として連れてかれた。
山賊の襲撃か? いや、他国からの侵略だな。
赤い湖が、王宮の人々の血でさらに赤く染まる。──父上! 兄上! ──
……俺はこの国の王族の過去を見てんのか……?
──私が捕虜になります。もうこの国に手出ししないで──
ティアーリカが目の前で、侵略国の騎士団長と思われる人物に連れてかれた。
「アルフェ! いい加減にしろ!!」
これは俺が見ていい過去じゃねえ。実際にこの過去を体験した人がいる以上、この行為はその人の古傷をえぐり出すに等しい!
『……でも』
でもじゃねえ! 俺は自身の過去を他人に知られたら、激昂する自信があんぞ!
『ひとつのくにのおわり』
それは見りゃ分かる! だからこそ、これは本人の許可が必要な過去だ。
『しってほしかった』
アルフェが沈んだ声音で、反省したように俺に擦り寄る。
……強く叱り過ぎたか……?
もしかして俺は、小動物に弱いのかもしれん。
「反省してんならいい。こんなこと、もうやるなよ」
まて、アルフェは他人の過去も見れるのか。サクヤが時を見通す精霊って言ってたな。
っつうことは、リダルにリダルの過去を見せれば、記憶が戻るんじゃねえか?!
『さいご』
──許さない、許すものか! 絶対にッ! ……覚えてろ、ボリスベルングッッ!!──
黒衣を着た人物が、雨に打たれながら慟哭している。
……あれは、まさか……。いや、見なかったことにしよう。
あいつも、俺に知られるのを望んじゃいねえだろ。
だが、比武大会でのあいつの動向は、今まで以上に注意して見ておくか……。




