表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄とドラゴン  作者: ヒトミ
亡国の王子
35/60

比武大会開幕式

ミストラルとの秘密特訓から数日後。


比武大会の日がやってきた。


クリスタニア王国で一番大きな闘技場らしい、王宮の近くにあるボリスベルング闘技場で、大会は(おこな)われる。


「ねえ、ラルジャン。ボリスベルングっていう名前、今の国王の名前なんだよ。悪趣味(あくしゅみ)だよね!」


開幕式(かいまくしき)のため、大会参加者たちが闘技場内で思い思いの位置に立ってる(なか)、俺の隣にいたレントが、珍しく皮肉を口にした。


こいつが他人の悪口を、明確に発したのは初めてじゃないか……?


「建物に自身の名をつける王は多いだろ? 悪趣味とまでは思わねえが、奴隷制を維持させてる時点で、俺はこの国の王が気に()わん」


ロプトル帝国にも、初代皇帝の名を(かん)する城がある。


レントも俺と同じで、国王が気に入らないっつうことなのか?


「そうだよね。奴隷を酷使し、自身が戦場に立つわけでもなく。……周辺国を蹂躙(じゅうりん)した」


声音(こわね)が、レントの目が、仄暗い憎悪の感情を押し隠すように歪む。


「おまえは──」


この大会で優勝して、何をする気なんだ?


俺が(あと)の言葉を続ける前に、開幕式の音楽が流れ始めた。


◆◆◆


音楽の途中から、透き通った歌声が響き始める。


聞くだけで心が洗われ、この先にある不安や恐怖、何もかもを消し去り、希望へと変えていく声。


人によってはこの歌で、(やまい)までどこかに飛んで行くんじゃないか?


歌声の(あるじ)は闘技場の観客席、見るからに王だと分かる男の横に、無表情で立っていた。


背には一対の翼。首元には衣装の飾りで見えないが、おそらく隷属の首輪がついてるんだろう。


あの天神族がティアーリカか!


ディーが言ってたように、自由意思はなさそうだな。


カチ……


横から鯉口(こいくち)()るかのような音が聞こえた。


咄嗟(とっさ)にレントの手を抑える。


「……今、何しようとした?」


脇差(わきざし)を抜き放とうとしたよな。


初戦が始まるまでは、武器を抜いてはならない。それが規則の一つだったはずだ。


「失格になりたいのか?」


下を向いているレントを見ながら、小声で問い(ただ)す。


ゆっくりと顔を上げるレント。


黒い前髪に隠れて、その表情はうかがい知れない。


引き結ばれた口元と、震えるほど固く握られた(こぶし)だけが、こいつの激情を(あらわ)していた。


「──。そんなわけないよ! 私は優勝するために、ここにいるんだからね」


出だしの言葉は俺の耳でも聞こえなかったが、長くも短い時間で平静を取り戻したらしいレントは、いつもの明るい口調で答え、俺に対してニコリと口角を上げる。


後に残ってるのは(うっす)らとレントから(ただよ)ってくる、血の匂いだけだ。


口元か、手のひらに傷が付いたみたいだな。


こいつをここまで動揺させたのは、国王か天神族か、どっちだ? ……それとも、優勝商品の第二王女絡みか。


「第二王女と結婚するために?」


第二王女のアイーシャらしき少女は、それこそ景品のように観客席の中央、目立つ場所に微動(びどう)だにせず座ってる。


この位置からだと遠すぎて、王女の感情を読み取ることはできない。


俺は自分が商品になるくらいなら、相手を殺して逃亡するぜ! 昔はその力がなかったけどな!!


……ああ、王女にもその力がないわけだ。だからディーが助けを求めてきた。


ディーはどこにいる? 第一王女の騎士って言ってたか?


「いいや。私の目的はもっと大胆なものだよ……。私には何もないからね!」


王女と結婚するより大きな目的って何だよ。


平静なのかそうじゃないのか、よく分からん。


今のこいつを見てると、家族を亡くした孤児仲間を思い出す。あいつは探索者協会の依頼で死に急いで、結局、依頼を達成できずに死んだ。


「無茶なことはするなよ?」


何かやらかしそうで心配だぜ! くれぐれも死に急ぐような真似はするなよ……。


「そんな不安げな顔しないで。私は私の目的のために最善を尽くすから」


……そうじゃねえ……! 俺が心配してんのはレント、おまえの生死(せいし)なんだよ!


自身の身を(かえり)みず、無茶なことしそうなおまえのことだ!


俺は一つため息をついた後、大会初戦に向けて気を引き締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ