秘密特訓
いよいよ、比武大会の日が近づき、王都は見物客や商人、旅人さまざまな人たちでごった返している。
俺は数日前、ミストラルにとある頼み事をしていた。
それは、大会前の秘密特訓だ。
レントとの対戦で思い知った。俺はこのままじゃあいつに勝つのは難しいと。
リダルのことは後回しだ。リダルはアメリアのことを知ってから、平静さをまだ取り戻せてないようだったし、アメリアにリダルが記憶喪失だということを伝えても、悲しませる予感がしたからな。
ミストラルは俺からの頼み事を快諾してくれた。
◆◆◆
練武場で訓練すると、ある程度手の内が知られちまうよな……。
「この特訓は誰にも見られたくねぇ。俺らには適当な場所もあることだし、そこでやることにしないか?」
クルムから渡された羽飾りを、ミストラルに掲げて見せながら提案する。
「わらわは構わぬぞ。お主と戦うのは初めてじゃな。良い機会じゃ。わらわ流の戦い方を伝授しようかの」
「人型で頼むぞ。今回の対戦相手は人だからな」
ミストラルにドラゴン形態で襲われたら、無事でいられる自信はねえ。
一応ミストラルも探索者だ。人型での戦闘にも慣れてるだろ?
そんな会話が数日前に、俺とミストラルの間で交わされ、俺ら二人は久しぶりに、拠点の浮島に戻ってきていた。
◆◆◆
浮島で秘密特訓が始まって数日。
俺はミストラルの激しい魔法攻撃に、擦り傷を負いながら、必死の抵抗をしている。
「このくらいの魔法、避けられなくてどうするのじゃ? 脇ががら空きじゃぞ! 風魔法を使いこなさんでどうする!」
ミストラルにレントの戦い方を再現してくれと頼んだら、戦闘難易度が跳ね上がりやがった。
最初は良かったんだ。
ミストラルの人型での戦い方は、鉄扇を使用した、優雅な舞のような動きで、俺の首元や足元を狙って繰り出される攻撃を避ければいいだけだったからな……。
それでも、風竜なだけあり、鉄扇から風刃魔法を発生させてきたり、俺の攻撃を風壁魔法で防御するっつう感じで、勝つのに苦労した。
だが、今はどうだ! 魔人族って、やっぱ強すぎねぇか?
ミストラルはドラゴンだからか、魔人族と同じように様々な魔法を使えるらしい。
次から次へと放たれる、火、雷、氷魔法……。その他ありとあらゆる属性魔法が、鋭い攻撃となって襲ってくる。
俺は風魔法で空を飛び、ときには地上すれすれを滑空し、魔法を避けた。
俺の武器は大剣だ。相手に接近できなきゃ意味がねえ……。
風魔法と大剣、合わせて攻撃する技を、新しくつくりだせねえかな。
そういや、リダルは盾を浮遊魔法で何枚も浮かせて戦ってる……。
──風魔法で俺じゃなく、大剣を何本も浮かせて、戦えばいいんじゃねえか!?
「ミストラル! 一旦休憩にしよう。一度クリスタニア王国に戻る」
鍛冶屋に行って、大剣を何本か手に入れてこよう。
試すだけだ。有り合わせのものでいいよな。
「すぐ戻るから、日光浴でもしててくれ!」
「ふむ。暇つぶしに温泉でもつくるかの……」
クリスタニア王国に転移する瞬間、おかしな呟きが聞こえた気がしたが、指摘するにもその時間がなかった。
……浮島に戻ったら本気で温泉ができてたり、しねえよな……。
◆◆◆
攻撃用、防御用、さて何本あればちょうどいいか?
そもそも俺が、リダルみたいな離れ業を、すぐに習得できるとは限らねえ。
欲張らず、今の大剣と合わせて、三本くらいあればいいだろう。
目についた鍛冶屋に入り、手頃な大剣二本を購入し、浮島に戻る。
「……なんだこれは……!」
海上都市ラルーナで見たような豪華な露天風呂が、先ほどまで草原だった場所につくられていた。
この短時間でどうやってつくったんだよ!
男湯、女湯と書かれた建物までつくられている。
ラルーナでも思ったが、どんだけ風呂好きなんだ? びっくりするぜっ!!
「ラルジャン、戻ったのかの。お主も特訓再開前に、お湯に浸かると良い」
「あ、あぁ。そうしよう……。ありがとよ」
ラルーナで見た浴衣とはまた違う柄の浴衣を着たミストラルが、女湯から出てきて言った。
俺は驚きから抜け出せないまま、男湯に入って汗を流す。
今日の訓練は終わりでいいか……。
明日、今回思いついた方法で戦ってみるとしよう。
空を見上げると、無数の星が煌めいている。
いい未来を暗示してそうだなぁ。
俺は露天風呂で少しだけ目を閉じた。




