教国の司祭と元剣闘士
イオとカイルスは、俺の誘いを受け入れ、俺らの席までやってきた。
「お誘いいただきありがとうございます。皆さまの視線が痛くて、ここで食事するのを諦める羽目になるかと思いました」
あれだけの騒ぎを起こせば、そりゃ注目されんだろ。
「私はまだ怒りが収まらん! 御使いさまを悪く言いおって!」
「イオ様、どうかお鎮まりを。大会で私が懲らしめますので」
憤懣やるかたない様子のイオを、慣れた仕草で諭すカイルス。
カイルスはイオの付き人かもな。
「さっきの会話を聞いちまって悪かったな。イオとカイルスっつう名前だろ。俺はラルジャン、こっちの二人はミストラルとサクヤだ」
アルフェは精霊石の中に戻ったみたいだから、紹介する必要はねえだろう。
俺はミストラルとサクヤを順に示し、名前を伝えた。
「こちらこそ、自己紹介をせず申し訳ありません。ラルジャンさんは私と同じ人種ですよね? 会話が聞こえてしまうのも分かります」
カイルスが目を指さして頷く。外見的特徴があると、人種を把握しやすくて楽だよな。
「全部聞いたわけじゃねえよ。結局、どうしてイオはそんなに怒ってたんだ?」
だいたいの予想はつくが。天神教の司祭だろうし、御使いさまっつうのは、天神族のことだろうからな。
「聞いてくれるのか! 若者よ」
ここからイオの長い話が始まった。あまりにも長いものだから、一部割愛する。
◆◆◆
事の発端は傭兵三人組が、ティアーリカの悪口を言っていたのを、イオが聞いてしまったことにある。
ティアーリカと言うより、天神族全体に対する侮蔑か。
この国の国王が、天神族を奴隷として扱っているせいで、傭兵までもが天神族を侮るようになってしまったわけだ。
天神教国の司祭であるイオには、それが許し難いものだった。
イオは風の噂で、ティアーリカのことを知り、この国にきたらしく、傭兵の会話で噂が真実だと知ってしまったことも、怒りに拍車をかけたんだろう。
ティアーリカは天神教国では『天空の歌姫』との異名で呼ばれ、親しまれていた御使いだったらしい。
ちなみに、カイルスは元奴隷の剣闘士で、イオがこの国にきたときに、闘技場で紆余曲折あり、助け出したとのこと。
◆◆◆
「──ですから、イオ様は私の恩人なのです」
カイルスのその言葉で、イオたちの話は締め括られる。
ティアーリカについて、新しい情報を知れたのは、思わぬ収穫だった。
「事情は分かったが、それでなぜカイルスは比武大会に参加するんだ?」
優勝商品がティアーリカっつうなら、参加する意味はあると思うが、商品は王女との結婚だ。
カイルスたちにとって、意味がないものだろ?
「……城下町で出会った女性に頼まれたのです。不本意ながら、ちょっと断れない状況に陥りまして」
「私が思うに、あの女性は素性を隠して、カイルスにあの依頼をしたのだよ。騎士だと言うのも怪しいぞ」
断れない状況、女性、依頼、騎士……。
俺も似たような状況で、大会に参加することになったよなぁ!
「それは私も思いましたが、お困りの女性を無視するのも如何なものかと思ってしまい。イオ様には無駄な時間を過ごさせて申し訳ないです」
ディー、あの女……。俺みたいな奴を、何人も大会に潜り込ませてるんじゃねえか?
いい考えだと思うが、依頼された方はたまったもんじゃねえだろ。
「その女性、ディーっつう偽名を名乗らなかったか?」
「……名乗ってました!」
「やはり偽名だったか」
俺の言葉に、カイルスは瞠目し、イオはうむうむと頷いた。
「あー、じゃあ、依頼内容も同じだよな」
死に物狂いで優勝を狙う必要はなくなったみたいだ。
だが、王族とのツテを手に入れるためにも、手加減することはない。
「でしょうね」
カイルスにも、大会出場を辞退する気配はなかった。
「ま、勝ち抜き戦で当たったら、よろしく頼むわ」
「こちらこそ、正々堂々とお相手よろしくお願いします」
元剣闘士と、勝ち抜き戦で戦える可能性があると思うと、血が沸き立つ。
俺らはそのまま歓談を楽しんだ後、それぞれ食堂を後にした。




